第三十五話 奇妙な砦その六
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そのうえでだ。彼は憂いのある顔でこんなことを話した。
「駿河が空くとなるとどうなる」
「すぐに武田殿が入られますな」
幻庵がここで述べた。
「それは火を見るより明らかです」
「叔父上もそう思われるか」
「はい、それに対して我が北条はです」
他ならぬ彼等自身だ。彼等はどうかというのだ。
「今は関東の各地に兵を出しまた政にも力を入れておりまする」
「そうじゃ。駿河には向かうことができぬ」
力には限りがある。それは北条とて同じなのだ。
だからだ。関東の制圧と経営に力を入れている彼等は今はだ。駿河が空こうともなのだ。そこに向かうことはできないのだ。そうした事情があった。
そしてさらにだ。氏康はこのことも話した。
「若し駿河に行けるとする。しかしそうなればじゃ」
「武田殿と衝突しますな」
「あの精強の武田軍と争うことになります」
「今我等は関東の制圧と上杉の相手をせねばならないというのに」
北条にとってはだ。ここでこれ以上の敵を抱える訳にはいかないのだ。ましてや精強をもって知られる武田を相手にするなぞだ。彼等には想像もできないことだった。
そうした事情が重なってだ。結局はであった。
「ではその際は我等は動きませぬか」
「駿河は放っておく」
「そうされますか」
「それしかない」
氏康はその結論を述べた。
「武田殿に任せるとしよう」
「わかりました。それでは」
「その際は我等は駿河を見ない」
「そうしましょう」
家臣達も言っていく。その中でだ。
大道寺がだ。こんなことを言ったのだった。
「では殿」
「うむ、何じゃ」
「今川殿の残りの国ですが」
今川の勢力圏は駿河だけではないのだ。遠江や三河もあるのだ。彼が今ここで言うのは他ならぬその二国のことなのであった。
「そこはどうなりますか」
「一つ、独立するやもな」
「独立でございますか」
「三河には元々松平がおった」
元康の家である。
「あの家の者が生き残ればじゃ」
「三河に松平が復活する」
「そうなりますか」
「そうなるやも知れん」
氏康がこう言うとであった。
家臣達もだ。唸る様にして言うのであった。
「大きく変わるのですな、東海は」
「今川殿がなくなり武田殿が駿河に入られ」
「そして松平ですか」
「それはまたかなりのものですな」
「いや、それだけでは終わらぬぞ」
ここでまた言う氏康だった。
「一つ抜けておる、そなた達の話にはな」
「!?抜けておりますか」
「我等の話は」
「そうなっていますか」
「そうじゃ。織田が抜けておる」
今川の相手となるだ。その家のことがだというのだ。
「あの家のことがな」
「その織田ですか」
「今川殿に勝つだけではない」
「といいますと」
「さ
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