第三十五話 奇妙な砦その二
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「上杉や北条殿の心配はなくともです」
「斉藤がおること自体が厄介じゃな」
「斉藤が動きそれと合わせて上杉が来ればです」
武田にとって最も恐れていることだった。精強を誇る武田も無敵ではないのだ。一度に複数の強敵を相手にしては戦えないのだ。
「流石に」
「だからじゃ。迂闊に多くの兵は出せぬ」
「信濃にそれなりの兵を置いておく必要があるかと」
「一万程度じゃな」
信玄はその数を言った。
「最低でもな」
「それだけを両家の備えとして置き」
「五千を甲斐に置き備えとする」
即ちだ。予備だというのだ。
「そして一万でじゃ」
「その場合駿河に入りますか」
「そうするとしよう」
「では殿と」
「幸村を連れていく」
彼をだというのだ。その彼をだ。
「そうするとしようぞ」
「御意。それでは」
「駿河を手に入れられれば大きい」
信玄は言う。駿河のその豊かさをだ。
「甲斐や信濃とは比べものにならぬ国じゃ」
「塩も取れますし」
「塩、さらに大きいのう」
信玄のその言葉にだ。渇望が宿っていた。
「米や蜜柑だけではないからのう、駿河は」
「そう、その塩です」
「甲斐は今まで塩がなかった」
山国だからだ。それは信濃も同じだ。
塩がないことはそのまま他の国に命を左右されることである。無敵とまで恐れられている武田にもそうした弱点が存在しているのだ。
「それが手に入るようになる」
「その機会が来ればやはり」
「駿河は手に入れる」
絶対といった口調だった。
「あくまで。時が来ればだがな」
「ではあらかじめその用意を」
「しておくとしよう」
こう山本と話す信玄だった。そしてだ。
彼は幸村を呼んだ。それを受けてすぐにだった。
幸村は甲斐に向かう。十勇士を連れてだ。
彼は馬に乗り十勇士達は徒歩だ。その中でだ。
霧隠がだ。主に尋ねてきた。
「殿、宜しいでしょうか」
「何だ、才蔵」
「この度殿が甲斐に呼ばれることは何だと思われますか」
「駿河のことだな」
それだとだ。幸村はすぐに答えた。
「駿河に攻め入るおつもりなのだ、御館様は」
「!?まさか」
それを聞いてだ。猿飛が驚きの声をあげた。
そうしてその声でだ。彼もまた主に尋ねた。しかし霧隠のそれとは全く違う問いだった。
「今川殿と戦ですか」
「いや、今川殿とは争わぬ」
「ですが駿河に攻め入るのですね」
「そうだ。それはその通りだ」
「ならば今川殿との戦ではありませんか」
駿河は今川のものである、その認識のまま話す言葉だった。
「違いますか、それは」
「佐助、今川殿がいなくなればどうだ」
幸村は強い声になってだ。こう佐助に問うのだった。今度は彼が問うたのだ。
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