第四話 元康と秀吉その三
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「そして越前の朝倉です」
「斉藤も悩みはあるか」
「朝倉はあの朝倉宗滴が頑張っております」
「あの老人は老いてさらに盛んだな」
「名将です」
まさにそれだというのである。
「あの者が盛んに美濃を脅かしていますので」
「油断できぬというのだな」
「少なくとも尾張に目を向けている余裕はありません」
平手はそう読んでいた。
「ですから。ここはです」
「斉藤か」
「都合のいいことにまずこちらには信長様がおられます」
自身が今直接仕えているその若き主である。
「そして斉藤にはです」
「蝮の娘か」
「帰蝶でしたか」
「確かそんな名前だったな。何でもかなり気が強い娘だそうだな」
信秀の顔がここで微妙に歪んだ。そのうえでさらに言うのだった。
「娘ながら武芸にも秀でているというがな」
「左様ですか」
「蝮の子は蝮か」
信秀は少し吐き捨てるようにして言った。
「尋常ではないようだな」
「しかしです。道三の正室の娘でしたな」
「うむ」
「さすれば問題はないかと。信長様も嫡流であります故」
「まずは結ばせるということか」
「はい、そして気の強い娘ならばです」
ここから先は平手の願望だった。だが彼はそれをあえて言うのであった。
「信長様を上手く制せられるでしょう」
「それも望んでおるのだな」
「信長様は奇矯に過ぎます」
平手の顔が困ったものになった。
「あれでは。この先」
「それはいいと思うがな」
ところが彼の父である信秀の意見はこうしたものだった。
「別にな」
「よいというのですか」
「そうだ。あの武田にしても長尾にしても幼い頃はかなりの悪童だったというではないか」
武田晴信と長尾景虎のことである。
「特に長尾はな」
「それは聞いておりますが」
「うつけと言われておるがわしはそうは思わん」
顔も目も笑ってはいない。真剣そのものの言葉だった。
「若しうつけならばだ」
「どうだと」
「権六にしろ新五郎にしろ牛助にしろ仕えてはおらん」
彼等の気性は信秀が最もよくわかっていた。自身に仕えるに相応しい者でなけれそ仕えはしない、そうした気性を知っているのだ。
「それにだ。今信長の下には多くの者が集まってきておるな」
「それはそうですが」
「わしも見たがどれも見事な者達ばかりだ」
信秀はこう語る。
「あれだけの者達が仕えるとなれば尋常な者ではない」
「さすれば安心してよいというのですね」
「これはわしの贔屓目ではない」
それは断じてだという。
「信長は決してうつけなどではない」
「では何でしょうか」
「大うつけは大うつけでも天下を動かす大うつけだ」
「天下をですか」
「あの者はやる。わしより大きなことをな」
ここでだ。信秀はこの場ではじめて笑
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