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戦国異伝
第三十三話 桶狭間の前にその五
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「もう一人先鋒が必要です」
「うむ、竹千代じゃな」
 話はもうわかっているといった感じでだ。義元は満面の笑みで述べた。
「そうじゃ」
「左様です。では竹千代よ」
 雪斎は家臣達の中で真ん中位にいる元康に顔を向けた。そのうえで彼に対して告げるのだった。
「そなたもじゃ。よいな」
「有り難き幸せ。それでは」
「武勲を期待しておるぞ」
 義元はだ。その元康に優しげな笑みを浮かべてだ。こう声をかけた。
「和上が目をかけておるそなたの武、見せてもらうぞ」
「はい、それでは」
「まあ竹千代なら大丈夫あろうな」
 氏真は元康を温かい目で見ながら述べた。
「ただ。血気に逸って死なぬようにな」
「わかりました。それは」
「死んでは元も子もない」
 氏真の言葉もである。元康に対して親しげなものだった。
 その親しげな言葉をだ。さらにかけるのだった。
「折角麿も出陣するのじゃしな」
「氏真様もですか」
「そなたを見ておるとじゃ」
 こう元康に言うのである。
「轡を並べてみたくなったわ」
「だからでございますか」
「そうじゃ。だから出陣する」
 氏真は親しい態度のまま再び述べた。
「父上もそれで宜しいでしょうか」
「ほほほ、よいよい」
 義元は我が子の言葉に鷹揚に笑って返した。するとそのお歯黒で染めた黒い歯が見える。何処から見ても公家のものである。
「では共に都に向かおうぞ」
「それでは」
「さて、あの尾張を手に入れたらあのうつけはじゃ」
 信長はだ。どうするかというのである。
「平伏させたうえで都への道案内をさせてやろう」
「そうされますか」
「首を取るのではなく」
「あのうつけが死にたいのならそれでよいがじゃ」
 それでもだというのだ。義元は基本的にこう考えているのだった。
「そうでなければじゃ。命は助けてやる」
「そのうえで都までですな」
「道案内をさせると」
「麿は寛大よ」
 余裕に満ちた言葉であった。
「命まで取りはせぬわ」
「ははは、そうですな」
「あのうつけの首を見ても面白くありませぬ」
「さすればですな」
「案内をさせますか」
 家臣達も笑って話す。
「あのうつけもそれでほっとしましょう」
「命は取らぬというのですから」
「いや、殿も慈悲がおありで」
「ほっほっほ、麿は血を好まぬ」
 公家趣味で風流を好む義元はだ。実際にそうであった。失態を犯した家臣がよい歌を詠んだということで許したこともある。
 そうした彼だからだ。必要でないならばだった。
「だからじゃ。降参すればじゃ」
「そして謀反の気を見せねば」
「それでよしですな」
「そういうことじゃ。それでよい」
 あらためて言う義元だった。
「そして都に上ればじゃ」
「幕府ですか」
「殿が将
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