第三十三話 桶狭間の前にその四
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「戦われるというのは」
「妥当ですな」
「しかし。何か違うやもな」
ここでだ。こうした言葉も出て来た。
「殿が普通に戦われるかのう」
「むっ、ではまた何か奇策を考えておられる」
「そうだというのか」
「この度も」
「そうやもな」
そしてだ。今言ったのはだ。
森である。彼は鋭い目でこう同僚達に話す。
「殿はこの戦では兵を失いたくないと言っておられたな」
「うむ、伊勢や美濃がまだある」
「だからとな」
こうだ。柴田と佐久間が頷く。織田家の武の二枚看板は清洲に留まっている。彼等以外にもだ。平手や佐久間盛重、そして木下兄弟や蜂須賀以外の殆どの面々はだ。清洲に留まったままだ。
「殿は先を見ておられる」
「それは間違いない」
「さすれば。ここで兵を失ってどうするか」
森が言うのはこのことだった。
「伊勢や美濃に何もできぬでは話にならんな」
「それどころか失う兵の数によってはじゃ」
「勝っても危うくなるな」
二人は考えを巡らせていってだ。そうしたことも述べていった。
「伊勢は国人が入り乱れて一つの力になっておらんがな」
「美濃は斉藤がおる」
その斉藤こそがだ。問題だというのだ。
「下手に兵を失えば」
「そこで攻め込んで来るぞ」
「そうじゃ。だから今川相手といえどもじゃ」
それでもだとだ。森の指摘が続く。
「今は兵を失えん」
「前もそんな話をしたが」
「殿はどう考えておられるかじゃな」
「突拍子もないことではないか」
森はだ。ふとこう察したのだった。
「またな。殿らしくな」
「ううむ、わからん」
「どうするか」
「少なくとも今は見ていることしかできまい」
森の今の結論はだ。これしかなかった。
しかしだ。結論を述べたうえでだ。彼はこうも話した。
「さすれども。三河と尾張の境や尾張の東をしきりに調べておられるな」
「うむ、今もな」
「熱心にされておる」
「ここに何があるかものう」
森は考える顔であった。そのうえで言葉を出していくのであった。
「そこからのう」
「そうじゃな。とにかくじゃ」
「この戦も勝たなくてはな」
彼等も今は主の考えを読みきれていなかった。それを知ってか知らずかである。信長の動きは呑気なものだった。まるで危機が迫っていないかの様にだ。
そしてだ。駿河ではだ。
義元がだ。主だった家臣達を集めて問うていた。
「備えはできたな」
「はい」
「今こそです」
家臣達はだ。満面の笑みで主に対して答える。
「出陣の時です」
「全軍を以て」
「そうじゃ。まず尾張を討つ」
義元は高らかに笑って述べた。
「そうするぞ」
「畏まりました。それでは」
家臣達の中で最も義元に近い場所に座している雪斎が言った。その向かい側に
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