第四話 元康と秀吉その二
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その主である竹千代を手に入れることはそのまま三河を手に入れることになる。戦によらずして国を一つ手に入れることは実に大きかった。
「さすればこそ」
「わかった」
義元もここで頷いた。
「では和上に任そう。三河のことはな」
「お任せあれ。さすれば」
こうして雪斎は自ら軍を率いてその安祥城を攻めた。彼の軍略は老練にして精巧なものであり城は忽ちのうちに陥落した。そして信広は捕らえられてしまった。
このことはすぐに信秀にも伝わった。彼はそれを聞いてまずは驚いた。
「信広がか」
「はい、今川に捕らえられてしまいました」
平手が主に対して述べていた。
「お命は無事です」
「左様か」
「しかしそれによってです」
「何かあったか」
「今川から信広様をお返しするとのことですが」
「それだけではあるまい」
条件がないとは考えなかった。信秀はこのことはすぐに察した。
「そうだな」
「はい、今川もまた人質を返すように言っております」
「あれか」
信秀はそれを聞いて忌々しげに述べた。
「三河のあれか」
「竹千代殿です。如何しましょうか」
「止むを得ん」
苦い言葉だった。しかしそれと共に決断の言葉であった。
「さすればじゃ。応じよ」
「はっ、それでは」
「これで三河への足掛かりが消えたな」
「無念ですが」
「それで済むとは思えぬしな」
信秀はここでこうも言うのであった。実に忌々しげな顔で。
「おそらく今川に寝返る者が出るぞ」
「刈谷の水野や鳴海の山口が危ないですな」
「その通りじゃ。また戦をせねばならんかもな」
反乱を抑えるかその反乱を起こした者にだというのだ。
「ここはな」
「左様ですな。今川はこれから傘にかかって攻めるでしょう」
「今川の兵は多い」
信秀は今川のことをよくわかっていた。伊達に幾度も戦ってきたわけではない。その兵の多さのことは実によくわかっていたのである。
「その相手だけで一杯になるな」
「左様です、ましてやです」
「斉藤の相手をしている余裕はなくなる」
信秀の目が光った。
「清洲の方も気になるしな」
「それで考えがあるのですが」
平手の態度があらたまってきた。
「宜しいでしょうか」
「手を結ぶのだな」
信秀はすぐに彼が何を言いたいのか察した。
「どの者とだ」
「斉藤はどうでしょうか」
平手はそのあらたまった態度で述べた。
「美濃の斉藤は」
「美濃か」
「はい、斉藤もまた多くの敵を抱えております」
ここで平手の分析が述べられた。その斉藤氏について述べるのだった。
「まずかつての土岐に与する者達がまだ美濃におりますし」
「それに外だな」
「まずは近江の六角」
この家であった。近江に勢力を張る古豪である。
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