第三十二話 結納その五
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「それは違うぞ」
「違いますか」
「そなたと供にいるからよいのじゃ」
「ではこのままで」
「そうじゃ。供にいようぞ」
笑顔で話すのだった。
「これからもずっとな」
「はい、それでは」
「あの猿も妻を迎えたしのう」
ここで彼は木下の名前も出した。
「わし等もな」
「ですね。木下殿のそのお屋敷は」
「全く。どうしたものじゃ」
前田はさらに笑う。その笑顔での言葉だった。
「向かいにあるとはな」
「そうですね。そこにお屋敷を設けられるとは」
「しかしそれも縁なら」
「楽しまねば損じゃな」
「そういうことですね」
「さて、後は」
ここでだ。前田は考える顔になってこんなことを話した。
「何か腹が減ったのう」
「そうですね。それでは」
「今宵のおかずは何じゃ?」
「はい、魚です」
「それか」
「魚を濃く味付けしました。如何でしょうか」
「よいのう。魚は大好きじゃ」
笑顔で述べる前田だった。
「では。それをな」
「はい、それと大根も」
「二人で食おうぞ。よいな」
こう話してだった。二人で食べるのだった。
「それが美味いからな」
「そうですね。一人で食べるよりも」
「二人じゃ」
また言う前田だった。
「よいな、まつよ」
「そういうところは同じですね」
「変わらんか」
「はい、昔から」
「つまりわしが子供の頃からじゃな」
「そうです、まことに同じです」
「左様か、変わらんか」
子供の頃からと言われてだ。考える顔になる前田だった。
そのうえでだ。まつに対してこう言うのだった。
「では。わしはまだまだ子供だというのか」
「そうではありません」
「完全にそうではないのか」
「そうです。大人になられているところもあります」
「ならばよいのだがな」
「そしてです」
「してとか」
妻になるまつのだ。その言葉をさらに聞く。その言葉は。
「というとどういうことじゃ」
「そうした又左殿だからこそ私も」
「よいとでもいうのか?」
「そうです。だからこそです」
「まあわしでよいのならよいがのう」
「少なくとも私は」
その前田の精悍な顔を見ながら。まつは話していく。
「殿でなければ夫とする気はありませんでした」
「今もか」
「無論です。そしてこれからも」
「言うのう。しかしわしもじゃ」
「殿もでございますか」
「そうしたそなたでなければ嫌じゃな」
このことはだ。変わらないのだった。
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