第四話 元康と秀吉その一
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第四話 元康と秀吉
元服して信長となった。それからすぐにだった。
信秀は三河にも勢力を拡げていた。そうしてそこに進出している今川氏と激しい戦いを繰り広げていたのである。彼の敵は実に多かった。
この今川には一人の傑物がいた。彼の名を太源雪斎という。
僧侶でありながら主である義元の師でもあり僧としての仏教に対する素養だけでなくその他の教養も豊かであり政はおろか軍略にも秀でていた。まさに今川の柱である。
その彼がだ。主義元に対して告げていた。
「三河から織田の勢力を取り除くべきです」
「そして三河を完全に麿のものにするのじゃな」
「はい」
まさにその通りというのだった。こう眉を丸くしてお歯黒を塗り髷も公家風にしている白面の男に告げていた。見ればその服も公家風であり烏帽子もだ。やや太めであるが気品のある面持ちもありやはり公家に見える。
その彼にだ。雪斎は告げていたのだ。
「その通りです」
「元より織田の進出は好むところではなかった」
ここで義元のその公家そのものの顔が歪んだ。
「それはな」
「さすればです。早速」
「して何処を攻めるのじゃ?」
「安祥です」
そこだというのである。
「あの城を攻めましょう」
「弾正の小倅の一人が入っておったな」
織田信秀のことである。
「そうじゃったな」
「左様です。先程元服して織田信広と名乗っております」
「あの大うつけの弟か」
「母親こそ違いますがその通りです」
「うつけの弟はうつけであろうな」
義元は頭から馬鹿にした調子であった。
「所詮のう」
「それはわかりませんが少なくとも若輩であります」
雪斎はそれは間違いないという。
「さすれば」
「兵を動かすか」
「そしてその先陣はです」
「朝比奈にでもさせようぞ」
義元は特に深く考えることなく重臣の名前を一つ出した。
「それか関口か」
「いえ、それがしです」
ところが、であった。雪斎はここでこう言うのだった。
「それがしが行きましょう」
「何っ、和上がか」
義元は彼のその言葉を聞いてだ。すぐに驚きの声をあげた。
「自ら先陣を務めるというのか」
「幾度もしておりますが」
「いや、しかしだ」
義元はいささか狼狽を見せながら彼に問い返す。
「和上は今川の軍師であり執権ぞ。しかも僧ではないか」
「僧が戦うのも今の世ですが」
「だからか」
「それがしに思うところがあります故」
顔立ちは整い温和なものがある。それを見ると決して戦を好む男ではないのがわかる。しかしその目には強い光が宿っていた。
「ですから」
「自ら向かうと申すのか」
「全ては今川の御為」
彼は静かにこう述べた。
「さすれば。宜しいでしょうか」
「ふ
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