第三十一話 尾張への帰り道その八
[8]前話 [2]次話
そのうえで己の傍らにいた丹羽に対してだ。こう告げたのであった。
「して五郎左よ」
「はっ、何でございましょうか」
「三河から清洲までの地はしかと調べておるか」
「それでございますか」
「そうじゃ。それはどうじゃ」
「はい、それは既に」
抜かりないとだ。こう述べるのだった。
「調べております」
「そうか。それではじゃ」
「はい、尾張に戻られれば」
「あの辺りのことはもう一度念入りに調べる」
さらにだ。そうするというのである。
「よいな、そうするぞ」
「わかりました、では尾張に帰られればですな」
「わしも自らあの場所に行く」
彼自身もだ。そうするというのである。
「そうするぞ」
「殿御自らとは」
「そこまでされるというのですか」
「あえて」
「そうじゃ。今川との戦いもまた大きなものとなる」
それを踏まえてだというのである。信長もだ。
「それならばじゃ。わしがこの目で見なければならん」
「それは我等がしますが」
「それでもなのですか」
「殿が御自身で」
「そうされますか」
「己の目で見ずしてどうするか」
実にだ。信長らしい言葉であった。
「そう思わぬか?」
「確かにそうですか」
「御自ら御覧になられて」
「そのうえで、ですか」
「今川と戦われる」
「これは覚えておくのじゃ」
信長の言葉が強くなる。
「まず今川の兵は我等より数が多い」
「そのことですか」
「まずは」
「そしてじゃ」
さらにあるというのだった。
「我等の敵は今川だけではない」
「美濃の斉藤」
「あの者達もですな」
「頭に入れておけと」
「そうじゃ。我等の相手は今川だけではない」
それもまた、だ。重要だというのである。
「そのことが大事じゃ」
「では。今川との戦は」
「長くかけてはならない」
「そう仰るのですか」
「長くかけては話にならんな」
まさにだ。その通りだというのである。
「若しそれで勝てたとしてもじゃ」
「我等が勝ったとしても」
「それでもでございますか」
「傷を深く負ってはどうにもならん」
一言でだ。それは駄目だとする信長だった。
そしてだ。そのうえでこのことも話したのだった。
「それから伊勢や美濃に攻め入るのにもじゃ」
「下手に兵を減らせませんか」
「その為には」
「傷が深い獣を仕留めるのは容易い」
信長はこうも言った。
「しかし無傷の獣は容易ではないな」
「では。ここは何としても」
「今川との戦は傷を浅くしてですか」
「そうして戦わなくてはならない」
「兵は減らせませぬか」
「戦は一つだけではない」
信長はこのことをよくわかっていた。だからこそ言うのだった。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ