第三十一話 尾張への帰り道その七
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「御主あえて平手殿の前でそれをするつもりか」
「なりませんか?」
「それもまた悪戯か」
「面白いと思いませぬか?それで怒られると思うと」
「全く。御主という男は」
柴田は呆れながらも慶次に言う。
「まことの悪戯小僧よのう」
「いや、褒めてもらうと照れまする」
「褒めているのではない」
それはすぐに否定された。全力でだ。
「怒っておるのだ。まあ悪戯小僧でない御主こと。まことにな」
「何なのかわからぬわ」
佐久間も首を傾げさせながら述べる。
「それが御主か」
「そうでござるな」
可児がここで出て来た。
「この者は。そうでなければ面白ろくありませぬな」
「面白いで済ませるのか」
「それがしはそうでございます」
可児は破顔で佐久間に言葉を返す。
「伊達と酔狂がそれがしの生き様でございますから」
「いくさ人という訳か」
「それを自負しておりまする」
「では命も惜しくないと申すか」
佐久間はふと可児のその顔を見てそれから問うた。
「そう申すか?」
「捨てても惜しくないと思う時はあり申した」
「そうか、そこまでか」
「生きるも死ぬも槍一本」
まさにいくさ人そのものの言葉だった。それを言ってであった。
彼は今度は不敵に笑ってだ。こう言うのであった。
「ですから。それはでございます」
「言うのう、全く」
佐久間の声もいささか呆れるものになっていた。しかし柴田のそれとは調子も相手も違う。柴田よりもその強さもいささか弱いのだ。
「傾くか」
「傾くのも嫌いではありませぬ」
「そうか。ではじゃ」
「はっ、それでは」
「また戦の時に頑張れ」
そうせよというのだった。
「遅かれ早かれ今川とは大きな戦になるからな」
「そうですな。その時は是非死ぬ様な場所に入り」
そうしてというのであった。
「どんどん首を獲る所存でございます」
「言うたな、今」
「はい、言いました」
佐久間にそのまま返す。
「御聞きになられたでしょうか」
「聞いたわ。では期待させてもらうぞ」
「はっ、有り難きお言葉」
「わしも聞いたぞ」
信長もだ。それを聞いたと言うのであった。
「しかとな」
「ではその時は是非それがしを危うい場所に」
「送るわ。安心せよ」
「はっ、それでは」
「そしてじゃな」
ここでだ。信長は考える顔になってだ。
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