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戦国異伝
第三十一話 尾張への帰り道その三

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「確か」
「そうじゃったな。李とかいったな」
 信長も林のその言葉に応えて話す。
「まああの国には李という名前が多いがのう」
「李卓吾だったでしょうか」
「そういう名前だったかのう。とにかくその者じゃったな」
「はい、童心の重要さを言ったのは」
 この辺り林の学識が出ている。彼は織田家においてかなりの学識の持ち主として知られているのだ。それで信長の役にも立っているのだ。
「そうだったかと」
「そうじゃったな、とにかくその者じゃったな」
「はい、童心を説いたのは」
 また話す林だった。
「それでその童心ですが」
「慶次にはあるのじゃ」
「そしてそれがですね」
「うむ、それがよいのじゃ」 
 信長は笑顔で話す。
「そのまま行けばいいのじゃ。慶次はのう」
「ではそれがしは不便者でいきまする」
「それで行くのじゃぞ」
 また言う信長だった。
「よいな」
「遠慮なくそうさせてもらいます」
「それぞれよいところがあるのじゃ」
 信長の今の言葉は家臣全員への言葉だった。
「だからこそわしも用いる」
「だからでございますか」
「我等を用いられるのは」
「それで」
「そうじゃ。用いぬのなら最初から用いぬ」
 この考えは今も徹底していた。信長は用いない者は最初から用いない。しかし用いるとなればだ。最後まで用いる者なのである。
「そうするからのう」
「そうですな。殿がいつも言っておられる通り」
「用いぬならですな」
「最初から」
「そういうことじゃ。さて」
 ここまで話してだ。そのうえでだ。
 信長は自分から馬を前に進めてだ。そうして家臣達に言うのだった。
「では。足を速めるぞ」
「そうですな。その分速く尾張に戻り」
「ゆっくりとしますか」
「長旅になった。骨休めも必要じゃ」
 だからだというのである。
「それでじゃが」
「それで?」
「それでといいますと」
「またわしに会いたい者がおるからのう」
 こんなことも言うのだった。
「その者と会っておかねばな」
「刺客でございますな」
 滝川がすぐに言った。
「あの者達が」
「もう一組おったな」
「はい、おりまする」
 その通りだとだ。滝川は主に述べた。
「それは既にです」
「傍に来ておるか」
「どうされますか。それで」
 滝川は鋭い声で主に問うた。
「今度は」
「そうだのう。今度はな」
「また訪問されますか」
「まさかとは思いますが」
「ははは、同じ手を続けてやるのは面白くない」
 家臣達にだ。笑ってこう話すのだった。
「今度はじゃ」
「何を考えておられるやら」
「どうやら殿もこれは」
 家臣達は信長をやれやれといった顔で見ながら話す。
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