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戦国異伝
第三十話 交差その六

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「急がずともよい。それについてはな」
「焦るとかえってよくはなくなる」
「だからですね」
「それは」
「そうじゃ。堺まで掌握するのはまだ先じゃ」
 これも話す。信長はここでは焦っていなかった。決してだ。
 何故焦ってはなないかもだ。信長は話すのだった。
「伊勢や美濃を掌握してじゃ」
「そしてそのうえで上洛して」
「そうしてですか」
「そのうえで」
「それから堺じゃ」
 それでだというのであった。
「わかったな」
「段階がありますか」
「堺に至るまでもですね」
「それがなのですか」
「そうじゃ。一足飛びも二足飛びもない」
 信長は大胆なだけではない。物事を進めるにあたってはだ。実に慎重なのだ。そうした一面もあるのである。
「一歩ずつじゃ」
「一歩ずつ進める」
「そうしますか」
「急がずにですか」
「急がぬが確実に進める」
 実際にだ。彼が尾張でしたことだった。まさにだ。
「よいな」
「わかりました。順調にですね」
「一歩ずつ確かに進めますか」
「そうじゃ。今もそうだしのう」60
 それはだ。今もだと話すのだった。
「都まで。一歩ずつだったではないか」
「そういえばですな」
「伊勢から奈良、堺」
「そして今の都でございます」
「まさに一歩ずつですな」
「確かに」
 これは家臣達も気付くことだった。まさにだ。信長は今回の上洛もだ。一歩ずつ確実に進めていったのだ。そのことに気付いたのである。
 そういうことだった。そしてだ。
 その話をしてからだった。信長はだ。正面を見て話を戻すのであった。
「ではじゃ。越後の龍とじゃ」
「御話でもされますか?」
「それでは」
「上杉謙信と」
「ははは、話すあてはないぞ」
 そのことは否定するのであった。笑いながらだ。
「わしから声をかけては何かおかしいしのう」
「おかしいでございますか」
「それは」
「そうじゃ。何か他人行儀じゃ」
 妙にだ。ここでは謙虚で繊細なものを見せる信長だった。
「それはどうじゃ」
「何か殿らしくないですな」
「しかし妙に納得もできまする」
「いやいや、どうもこれは」
「面白いことでござるな」
「ははは、わしはこれでも照れ性でのう」 
 自分でだ。笑ってこう話す信長だった。
「見知らぬ相手にはどうしてもな」
「声をかけにくい」
「左様ですか」
「そういうことじゃ。向こうから声をかけてくるとも思えんしのう」
 それもないというのだ。謙信がだ。自ら声をかけるかというとだ。それも考えられないというのである。
「だからじゃ。ここは何もせずじゃ」
「擦れ違いですか」
「それだけですか」
「そうじゃ。それだけじゃ」
 そうするというのだった。
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