第三十話 交差その三
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「尾張に攻め入る時にはじゃ」
「先陣を務める」
「間違いなくですか」
「そうしてくると」
「竹千代もじゃ」
元康もだというのだ。
「あの者もそうなるじゃろう」
「先陣になる」
「雪斎殿と松平殿がですか」
「二人で」
「どうやら竹千代は今川において随分と可愛がられておるようじゃ」
信長は笑いながら話す。元康に対して親しみを見せている笑みであった。
「あの老僧だけでなく今川の主家からものう」
「才がありそして人柄もいい」
「律儀な方ですし」
「それならばですね」
「好かれぬ筈がない」
「左様でございますか」
「そうじゃ。しかもその家臣達はまとまりがよく武辺者ばかりじゃ」
三河武士は強い。しかもまとまりもいい。その辺りは尾張者とは全く違う。正反対と言ってもいい程だ。隣同士であってもだ。
「そうした者ならどうする」
「手柄を立てさせる為にも」
「それに活躍も期待できます」
「ならばですな」
「あの方もですか」
「そうじゃ。先陣じゃ」
元康もだ。先陣だというのである。
「この二人は間違いなく先陣で出て来る」
「では公家髷殿の傍にいるのは」
「雪斎殿がおられぬ」
「そして松平殿もといいますと」
彼等は考える。そのことをだ。
「軍師がおりませぬな」
「そこそこの将は揃っていますが」
「それでもですな」
「そうじゃ。軍師がおらぬのじゃ」
信長の言葉が鋭いものになる。まさに刃であった。
「そこが問題なのじゃ」
「傍に軍師がいない」
「肝心の二人が先陣でございますか」
「そうじゃ。まあ今はこの話はこれで終わりじゃ」
信長は話をいささか強引に打ち切った。
「さて、では尾張に戻るとしよう」
「奈良に堺に都にと色々回りましたが」
「それも終わりですな」
家臣達は何処か寂しそうでそれでいて楽しげな顔になっていた。そうしてその顔でだ。後ろを振り返ってからそうしてだ。尾張への帰路につくのであった。
その都を出る時にだ。前からであった。
黒い服の一団が来た。彼等は。
「むっ、あれは」
「黒というと」
「あれか。越後の」
「越後の龍か」
「その様じゃな」
信長もだ。彼等を見て言った。その黒い一団をだ。
黒といっても闇ではない。そこに美しさがあり見栄えのいい、そうした黒であった。その黒い一団の先頭にだ。白い、頭巾だけが白い流麗な顔立ちの者がいた。
その顔を見てだ。信長は面白げに笑って述べた。
「あれが龍じゃな」
「越後の龍でございますか」
「上杉謙信」
「あの男こそが」
「ふむ。あの甲斐の虎と引き分けたのじゃ」
信長はここでこのことを話した。川中島のことだ。
「さぞかし恐ろしい顔の男と思っておったが」
「どうも。違いますな」
「女の様な、
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ