第三十話 交差その二
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そのうえでだ。こう話すのだった。
「尾張に戻ればじゃ」
「戻ればですか」
「どうなるか」
「今川でございますか」
今言ったのは佐久間だった。語るその目が鋭い。
「それとも斉藤でございますか」
「今川じゃ」
この家だというのである。
「今川が動くな」
「いよいよあの家がですか」
「動きますか」
「遂にでございますか」
「そうじゃ。尾張に戻ればすぐにじゃ」
今川とのだ。戦だというのだ。
「必ず勝つぞ」
「今川といえばですな」
ここで話したのは木下だった。
「軍師の雪斎殿にもう一人おられますな」
「そうじゃ。竹千代じゃ」
信長はすぐに述べた。今川のもう一人の将のことをだ。
「あ奴は。見事な者になっておるそうじゃな」
「雪斎殿の愛弟子だとか」
「そうじゃ。あの老僧も見る目がしっかりしておる」
信長は敵であろうともだ。確かな評価をする男だった。それを今も見せる。
「竹千代は天下の柱の一つにもなれる男じゃ」
「だからこそあの老僧もでございますか」
「己の弟子に選んだ」
「今川の為に」
「そういうことじゃ。よく見ておる」
信長は雪斎をこう評した。
「あの公家髷の傍におったら適わぬな」
「確かに。まさに今川の柱です」
「それがもう一本でございますか」
「これは辛いですな」
「確かに」
「傍におればな」
信長はだ。言葉を微妙に変えてきた。
そしてだ。そのうえでだった。
元康と雪斎についても義元についてもだ。話すのであった。
「あの二人が公家髷のところにおれば厄介じゃ」
「そこにいればでございますか」
「主の下にいればですか」
「厄介だと」
「そうじゃ。厄介じゃ」
また言う信長だった。
「その場合はな。しかしじゃ」
「しかし」
「しかしといいますと」
「今川では大事な戦で先陣をできる者は誰じゃ」
信長は家臣達に対して問うた。
「その者は誰じゃ」
「やはり。雪斎殿ですな」
「あの御仁を置いて他にはおりますまい」
「何といっても」
実際に彼は法衣の上に鎧を着てそのうえで自ら先陣を切ることが多かった。彼は今川家において最も武勇の優れた者でもあるからだ。
「軍師であり先陣を切る将であります」
「あの御仁こそ今川家の柱でございます」
「戦の場においても」
「そうじゃ。戦でもじゃ」
雪斎は基本は政の者だ。内政においても外交においても非凡であり元々政の方を好み得手としている義元の相談役であるのだ。
そして戦場ではだ。馬に乗ることが不得手であり今一つ戦慣れしていない彼に代わってだ。実際に戦っているのだ。だからこそ先陣も務めるのだ。
「柱じゃ。あの者がな」
「だからこそ大事な戦においてはでございますか」
「先陣を務める」
「そうする
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