第三話 元服その十二
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「敵を見誤り」
「敵が何をしようが侮ってはならん」
吉法師の言葉はここでは鋭いものになった。その表情もだ。見れば端整な顔であるがそれは鋭さの実に合う顔でもあった。
「その行いや振る舞いからでだ」
「要はその本質を見ろというのですね」
「そうだ」
まさにそうだというのだ。
「わしの服や振る舞いで侮るならばそれでいいではないか」
「それにより吉法師殿を見誤るならばですか」
「そうだ、いいのだ」
また言った。
「そう見るのなら見させておけ」
「成程」
「もっともわしはこの格好も振舞いも好きでしているのだがな」
「平手が怒りますね」
勘十郎は織田家きっての頑固者の話もした。
「それでは」
「ううむ、爺には勝てぬ」
さしもの吉法師も彼の名前を聞いては弱った顔になった。
「ちとな」
「他の者はともかく平手はそうしたことはどうしても許しませんから」
「爺には茶道も学んでおるがだ」
今度は茶道の話も出て来た。
「しかし。傾奇を解せぬからのう」
「私も最初は戸惑いましたし」
「申し訳ありませんが私もです」
二人もだった。傾奇には抵抗があった。そのことを当の吉法師に言う。
「その格好は私には合わないかと」
「私にも」
「まあそうじゃろうな」
吉法師は己の後ろにいるその二人をちらりと見てから話した。今三人は道を歩き続けている。共の者達も後ろや周りに控えてはいるがその三人が中心だった。
「二人には真面目がいいじゃろうな」
「ですから。このままいかせてもらいます」
「私もまた」
「そうせよ。それでいい」
吉法師は二人はそれでいいとした。そしてだった。
ふと道の脇にある柿を取ってだ。その周りの者にも話した。
「御主達も食え」
「我々もですか」
「宜しいのですか?」
「そうだ、食え」
あらためてこう告げるのだった。
「遠慮することはない」
「殿がそこまで仰るのなら」
「それでは」
彼等もそれに従う。そうしてその柿をそれぞれ食う。
当然勘十郎と竹千代もだ。彼等も柿を手にしていた。そのうえでそれを食べながら前にいる吉法師に対して尋ねたのであった。
「あの」
「何故我等や家臣達にも」
「では聞くがだ」
当然吉法師も柿を食べている。そうしながら答えるのだった。
「あの木には柿がこれでもかと実っていたな」
「はい」
勘十郎が頷く。それはその通りだった。
「かなりの数が」
「それだけの数をわし一人で食えるか」
吉法師はこう問い返した。
「わし一人でだ。食えるか」
「いえ、それは」
「そうだな。食えぬな」
「それで我等にですか」
「独り占めすることは趣味ではない」
柿を食べながらの言葉だった。
「ましてやそなた達も腹を空かしていたな」
「
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