第二十九話 剣将軍その八
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「あの将軍の剣の腕は天下一品でございます」
「何人であろうが倒せばしませぬ」
「相当な手だれであろうとも」
そうした者でもだ。駄目だというのである。
「あの男は倒せませぬ」
「容易な相手はありませぬが」
「わかっている。ならば兵じゃ」
中央の男はだ。それだというのであった。
「兵を使う」
「兵をでございますか」
「まさか。軍勢を用いてですか」
「攻め滅ぼす」
「そうされますか」
「そうじゃ。それじゃ」
まさにだ。それだというのである。
「兵を用いてじゃ。攻め滅ぼす」
「足利将軍をでございますか」
「そうすると」
「そう御考えなのですか」
「おかしなことがあろうか」
中央の声はだ。いささか驚く周囲に対して平然と返していた。声だけでのやり取りである。しかしその感情の動きは闇の中に出ていた。
「嘉吉の変を見よ」
「あの時の将軍の様にですか」
「将軍も滅ぼすことができる」
「それでもよいと」
「そもそもあそこであの幕府の命運は尽きておる」
その変で六代将軍足利義教、暴虐を極め鬼の如くと言われたその将軍が赤松氏に討たれてだ。幕府の威信は完全に地に落ちたのだ。応仁の乱以前にだ。既に幕府の命運は決まっていたのである。
「だからじゃ」
「兵で滅ぼそうがですか」
「それでもよい」
「そう言われるのですね」
「幸い兵もある」
それもだ。あるというのである。
「あの者が持っておるな」
「確かに。あの男がです」
「我等が同族であるあの男が」
「しかも将軍を討てる場所にいる」
「それならばですね」
「使わずしてどうする」
それをだ。肯定する言葉だった。
「使えるものは使うべきだな」
「だからこそですか」
「あの男を動かす」
「そうされますか」
「あの男とて十二の一人」
こんな言葉も出た。
「それだけのことをしてもらわねばな」
「どうもあの男は近頃反抗的な様ですが」
「我等と距離を置きたがっているようですが」
「どうやら」
「それはできぬ」
明らかな、だ。否定の言葉だった。
「決してな」
「血族である限りはですか」
「我等からは離れられはしない」
「そして裏切ることはできない」
「左様ですね」
「我等の血は絶対のものよ」
まさにそうだとだ。中央の声は話すのだった。
「それでどうして裏切られる。離れられる」
「できはしませぬな、それは」
「我等もそうですし」
「我等。闇の血脈の絆はです」
「まさに絶対のもの」
「左様ですから」
周りもこう話す。確かな声で。
「では。あの男にですね」
「いざという時は」
「動いてもらうと」
「そうしてもらう。それにしてもじゃ」
ここでだ。さらにであった。闇の中で話が為されるのであった。
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