第二十九話 剣将軍その五
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「あの男にはよからぬものを感じぬか」
「松永からですか」
「そうだというのですか」
「あの男は」
「話を聞くだけじゃが」
それでもだというのである。彼はだ。
「あの男には魔性を感じる」
「魔性をですか」
「それをですか」
「あの男に」
「似ておる」
今度はだ。こんなことを言う信長だった。
「津々木にじゃ」
「あの男にですか」
「松永は似ているのですか」
「では。そういう男ですから」
「危険ですか」
「幕府にとっても」
今室町幕府は実質三好家、そしてその執権になっている松永久秀に首根っこを抑えられている。そうした状況なのである。
だからこそだ。その将軍が彼等の意に反する行動を取ると。それは。
それがわかっているからだ。信長は話すのだった。
「その時に。わしが何とかできる立場にいればな」
「よいというのですね」
「そうだと」
「そう仰いますか」
「うむ。わしは幕府をどうにかするつもりはない」
天下を統一してもだ。彼はそうしたことは考えてはいないのだ。それは幕府というものが最早権威も力も地に落ちているからだ。
彼にとっては確かに義輝の奮起と才能の開花は望ましい。しかしそれと共にだ。幕府が飾り以上のものには成り得ないこともわかっていた。
それでだ。彼はこう話すのだった。
「幕府を支えることはしてもじゃ」
つまり飾りでしかないというのだ。ここでは言葉に表と裏があり双方が絡み合っている。
「最早幕府はな」
「力を取り戻せはしない」
「それは最早ですか」
「決して」
「そうじゃ。精々山城一国じゃ」
そこまでの勢力に過ぎなくなっているというのである。
「それ以上はじゃ」
「力を持てない」
「そしてこのままですか」
「どうにもならないままだと」
「今の幕府はあれじゃ」
信長はここであるものを話に出した。
「神輿なのじゃ」
「祭りのですか」
「それでしかありませんか」
「そうじゃ。それでしかない」
達観した声でだ。信長は家臣達に対して述べた。
「最早な」
「しかしそれでもなのですね」
「そのうえで三好や松永に対さなければならない」
「どうしてもですね」
「わしは好きになった」
信長はだ。今度は微笑みになった。表情が非常によく変わるのはいつも通りである。
「公方様がな」
「今の公方様がですね」
「そうだと」
「見事な方じゃ。必ずよい将軍になられる」
そのことを確信したのだ。彼と会ってだ。
「剣だけでなくじゃ」
「将軍として必要なものを身に着けられる」
「そうだというのですね」
「そうじゃ。ただ危ういのは確かじゃ」
それは否定できなかった。やはり室町幕府が置かれているその状況は甘いものではない。それがわかっているからこそであ
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