第二十九話 剣将軍その三
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「多くの書を用意しておきます」
「余に献上するというのか」
「全ては公方様のお言葉次第」
彼は言った。
「何時でもそれがしに言って下されば」
「書か」
それについてはだ。義輝はまずは微妙な顔になった。
そしてそのうえでだ。信長に対してこう言うのであった。
「余も確かに書は読んできた」
「はい」
将軍としてだ。これは当然の嗜みである。将軍は政の為に必要な書は読んでおかなければならない。そうした意味で大名達と同じなのである。
「しかしそれよりもだった」
「剣でございますな」
「それにばかり気を取られていた」
そしてなのであった。
「名剣を集めていた。しかしそれよりもか」
「はい、書でございます」
「それを読み多くの者と対することこそ将軍か」
「全ては。公方様の思われるままにあります」
「わかった」
ここでだ。義輝は頷いた。頷いてから告げたのだった。
「ではだ。上総介よ」
「はっ」
「余は書を読む」
こう信長に告げた。
「そうさせてもらうぞ」
「畏まりました。ではすぐにこちらまで書を」
「頼んだぞ。そしてだ」
義輝から信長を見てだ。こう言うのであった。
「将軍に必要なものはだ」
「それは何と」
「器だな」
こう言ったのであった。信長に対して。
「それだな」
「左様でございます。器でございます」
「余は大器になろう」
「そしてこの天下を」
「治めてみせよう。しかしじゃ」
信長を見続けている。それは変わらない。
そして見続けながらだ。彼は信長に対して再び告げた。
「さすれば。いや、言うまい」
「そうされますか」
「今言ってはどうにもならぬ。しかしじゃ」
「はっ」
「そなたとまた会う時は来るな」
言葉を一旦引っ込めてだ。そのうえで出した言葉はこれであった。
「そうじゃな。またじゃな」
「一期一会、そして再会もまた人の生涯でござれば」
「ではその時を楽しみにしておこう」
確かな笑みを浮かべてだ。信長に告げたのだった。
「それまでは何があろうともだ」
「生きられますか」
「そうしよう。何をしてでもな」
しかしであった。ここでだ。義輝はこうも言ったのであった。
「将軍としての誇りを忘れずにな」
「誇りですな」
「それは決して忘れぬ」
「ではです」
信長は義輝の話を受けてまた問うた。
「誇りはあくまで、ございますか」
「それは駄目か」
「いえ、そうでなくてはいけないものでもあります」
「将軍はじゃな」
「左様です」
それが将軍だというのである。
「ですから」
「そうじゃな。誇りじゃな」
「御身と誇り、両方を立てられることです」
「両方をか」
「そして公方様には」
義輝にはだ。誰がいるかとも話す。
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