第二十九話 剣将軍その一
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第二十九話 剣将軍
将軍のいる部屋は床であり半分が一段上になっている。そしてそこにであった。
そこに入り暫くするとだ。明智が告げた。
「上様のおなり」
その言葉と共にだ。信長が頭を下げた。そして家臣達もだ。そうして全員が平伏する間にだ。その彼が部屋の上座に来るのであった。
薄緑の武家の服と黒い冠を被った青年である。引き締まった顔に身体つきをしている。その者こそがであった。足利幕府、そして武家の棟梁たる。
「将軍足利義輝様にございます」
明智が信長に対して述べた。そしてだ。
信長は顔をあげる。無論家臣達もだ。そのうえで将軍の顔を見た。
まずは貴相と言ってよかった。顔立ちも整い気品がある。しかしであった。
目の光がだ。妙なものだった。信長はそれがわかった。
だがそれについては何も言わずにだ。将軍の言葉を待つのであった。
将軍足利義輝はだ。こう言うのであった。
「織田上総介信長であるな」
「はい」
慎んだ態度でだ。義輝に応える。彼もこうした態度を取れるのだ。
「左様でございます」
「この度の尾張の平定」
義輝は言葉をさらに続ける。
「そして幕府への幾度に渡る献上金見事である」
信長は沈黙している。義輝の言葉を聞き続けている。
「そしてその功によりだ」
将軍としてだ。彼に告げた。
「尾張の守護に任ずる」
「有り難うございます」
「して」
ここでだ。義輝の目が動いた。
そうしてそのうえでだ。信長に対して問うのであった。
「して上総介よ」
「何でしょうか」
「御主、余に言いたいことがあるな」
こう信長に対して言うのだった。
「そうだな」
「そう思われますか」
「顔に書いてある」
それでわかるというのである。だがそこにあるのは読みではなかった。信長にもそれがわかった。
だがここでもあえて言わずにだ。将軍の言葉を聞き続ける。
「してだ。それは何だ」
「そのことですか」
「そうだ。何を言いたい」
また信長に問う義輝だった。
「一体だ。何を言いたい」
「それではです」
将軍の言葉を受ける形でだ。彼も口を開いた。
そうしてそのうえでだ。義輝にこう言うのであった。
「上様」
「うむ」
「上様は剣を学ばれてますね」
「武家として当然のことだ」
義輝はその目の光を妙なものにさせながら述べた。
「それの何処がおかしい」
「おかしくはありませぬ」
信長もそれは否定しない。
「決してです」
「そうだな。おかしくはないな」
「ですが」
待っていたかの様にだ。信長は言った。
「それだけではです」
「馬や水練もか」
「はい、それも」
「わかっておる。それは」
将軍はここで忌々しげに述べた。
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