第三話 元服その十一
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「このままずっとな」
「ずっとですか」
「若い時だけ傾いてどうする」
明るい笑顔である。その笑顔はそのままだ。
「生きる間ずっと傾いてこそじゃ」
「生きている間ずっとですか」
「そうじゃ、ずっとじゃ」
今度は勘十郎への言葉だ。
「傾くぞ、よいな」
「それはいいのですが」
勘十郎は兄の話を聞いてそれはよしとした。
「私にしろ竹千代殿にしろ」
「うむ」
「そして家臣達にしろです」
つまり吉法師の周りにいる者達はというのである。彼等はいいというのだ。
「兄上の周りにいる者達はいいのですが」
「その者達はだな」
「はい」
勘十郎は折り目正しい口調で兄に告げる。
「兄上がわかっているからです」
「それはいいのじゃな」
「ただ。民達はどうでしょうか」
彼がここで危惧するのは彼等のことだった。その民達のことだ。
「兄上の行いを見てよく思わないのではないのでしょうか」
「それは気にすることはない」
だが吉法師はそれをいいとした。
「民達はな」
「よいのですか?」
「そうだ、よい」
弟に対して落ち着いた顔で述べる。まるで何ともないといった様子だ。
「それはな」
「何故よいのですか?」
「わしの政を見ればわかるからだ」
だからだというのである。
「それを見ればだ。わかるからだ」
「兄上の政をですか」
「兵も同じだ。わしの戦を見ればわかる」
兵達もだという。彼は民も兵も見ていた。
「わしがどういった者かな。だからよいのだ」
「兄上の政や戦をですか」
「政を上手く行い戦に勝つ」
彼が言う言葉は簡潔だった。しかしそこには絶対の自信がありしかもその言葉には困難かつ複雑な現実もまた含まれていた。
しかしだ。彼はそれをあえて絶対の自信と共に簡潔に言ってみせた。何でもないといった調子でだ。
「それでよいのだ」
「とりわけ政ですか」
「政では抜からぬ」
明らかに戦より政を見ていた。それは間違いなかった。
「だからだ」
「そしてそれより民の心を掴まれるのですね」
「左様、そうする」
まさにそうだというのだった。
「わかったな」
「民達のことはわかりました」
勘十郎はこのこともよしとした。兄の言葉を受けて確かな顔で頷く。
「兵達のことも」
「わかればいい」
「ですが。外はどうでしょうか」
勘十郎は今度は外だというのだった。
「他の国は」
「わしを侮るというのか」
「はい」
まさにそれだというのだ。
「そうなれば何かとまずいのでは」
「侮ればそれでいいではないか」
吉法師はここでも落ち着いていた。本当に何でもないといった態度である。
「それでな」
「いいのですか」
「兵法の基本だ。相手を侮ればだ」
「それだけで敗れる」
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