第二十八話 都にてその十
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「都じゃが」
「都でございますか」
「この場所でございますか」
「うむ。わしも話には聞いていた」
今度は信長が言う番だった。
「しかし。聞くと見るとでは大違いじゃ」
「恥ずかしながら今は」
「幕府もとても」
「そうじゃな。それで公方様は如何されておる」
信長は二人にさらに問うた。
「何でも剣の道を極めんとされているそうじゃが」
「はい、左様です」
「その通りでございます」
こう答える二人だった。今彼等は将軍に会う前の待合の部屋にいる。そこにいてだ。そのうえで信長の家臣達も交えて話をしているのである。
「御自身を護られる為にはじめられましたが」
「今ではどうも」
「何か。剣に取り憑かれている様な」
「そうした有様です」
「いかんな」
そこまで聞いてだ。信長は眉を顰めさせて述べた。
「わしが思っていた以上じゃ。それはいかん」
「織田殿もそう思われますか」
「その様に」
「うむ、思わずにはいられん」
こう二人に話す。
「剣も大事じゃが公方様ともなればじゃ」
「それ以上にですね」
「極められるものがあると」
「これからじゃな」
ここでまた言う信長だった。
「わしが公方様に会うのは」
「はい、左様です」
「もう暫くすればです」
明智と細川はすぐに信長に答えた。
「公方様がこちらに来られます」
「ですからその時に」
「わかった。それではな」
信長は二人のその言葉に確かな声で頷いた。
「わしもお話させてもらおう」
「ですが今の上様は」
「どうにも」
二人の言葉が濁った。そのうえでまた言うのだった。
「誰のお話もです」
「聞かれぬところがあります」
「そうであろうな」
信長は二人の言葉を聞いて当然といったような口調で述べた。
「それも」
「気付かれていましたか」
「そのことも」
「御主達の話を聞けばわかる」
こう言うのであった。
「存分にな。左様か、剣か」
「それにとり憑かれているかの如くにです」
「今では」
「剣は時としてよくないものでもある」
信長はだ。その剣について述べた。
「わしは信じてはおらんがじゃ」
「それでもですか」
「何が。一体」
「言われるではないか。剣にはよからぬものも宿る」
ここで言うのはこのことであった。
「そういうものだからじゃ」
「あまり剣にのめり込むのもですか」
「よくはない」
「そう仰るのですね」
「織田殿も」
「そうじゃ。決していいものではない」
そのことは間違いないといった口調であった。
「さて、それではじゃ」
「そのことをですか」
「公方様にお話されますか」
「状況によるがな」
断言はしないのであった。
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