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戦国異伝
第二十八話 都にてその八

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 一人の僧兵が来てだ。こう彼等に告げるのであった。
「おお、そこにいたのか」
「むっ、何だ?」
「どうしたのだ?」
「すぐに寺に戻るぞ」
 その僧兵が彼等に告げた言葉だった。
「よいな、すぐにだ」
「何があった?」
「寺で何かあったのか?」
「座主殿がだ。我等を集めだ」
 そうしてだというのだ。
「三好や松永に備えるというのだ」
「三好に松永か」
「あの連中とか」
「そうだ、あの連中とだ」
 彼等から見ればだった。大名達も連中であった。
「どうも最近あの連中の動きが不穏になってきたとかでな」
「そうか、わかった」
「それではな」
「では織田は放っておくことにするか」
 まだ彼等の方に進んでくる信長を見ての言葉だ。
「所詮尾張の一大名だしな」
「そのうち今川にでもやられて滅びる」
「放っておくか」
「そうするか」
 こう話してであった。彼等は信長から視線を離してだ。
 その場を後にする。それでその場は何も起こらなかった。
 去る僧兵達を見てだ。家臣達はそれぞれ話すのだった。
「去ったな」
「そうだな」
「逃げた訳ではないようだがな」
「何はともあれ衝突はなかったな」
「ふむ。おおかた何処かの大名や国人に備えてであろう」
 信長は完璧ではないがそこまで見抜いていた。
「それだな」
「それでなのですか」
「僧兵達を寺に呼び戻した」
「それでなのですか」
「そういったところじゃな。もっともぶつかったその時はじゃ」
 信長の目が光った。鋭い光だった。
「わしも相手をしておったがな」
「殿御自身がですか」
「剣を抜かれていましたか」
「その時は」
「そうしておった。弓もあるしのう」
 鞍にあるその弓を見る。信長は刀よりも弓や槍の方を得意としておる。そういったものの方が剣よりも役に立つからである。身に着けたのだ。
「それで射抜いておったわ」
「戦う時は容赦しない」
「そういうことでもありますな」
「その通りだ。やるからには徹底的じゃ」
 この辺りも信長らしい言葉であった。
「せねばのう」
「左様ですか。そうされていましたか」
「延暦寺と揉めても」
「そうしていましたか」
「ふん、僧兵共を多少切っても構わん」
 僧兵達に対しての嫌悪も見せていた。
「その後で延暦寺と揉めてじゃ」
「それも構わなかった」
「そう仰いますか」
「あの延暦寺と揉めても」
「何、尾張と延暦寺では離れておる」
 信長は今度は距離から話した。
「そう派手なことにはならん」
「離れていては延暦寺もそう手出しはできない」
「そういうことでございますか」
「延暦寺は所詮都にだけじゃ」
 信長はその動く範囲も見切っていたのである。
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