第二十八話 都にてその二
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「しかしじゃ」
「しかしでございますか」
「かち合うのはでございますな」
「考えておられませんでしたか」
「うむ、そうなるとは思っておらんかった」
実際にそうだとだ。信長は話すのだった。
「しかしこれもじゃ」
「これも?」
「これもといいますと」
「面白いのう」
見ればだ。信長の笑みは楽しげなものになっていた。
「それもまたな」
「越後の龍と会うことがですか」
「それがですか」
「面白いというのですか」
「そうじゃ、考えてみれば面白い」
また言う信長だった。
「どうした者かと思うとな」
「軍神と聞いております」
林通勝が述べた。
「今だかつて負けを知らぬという」
「あの武田とも引き分けております」
柴田も言う。
「まさに毘沙門天の化身かと」
「らしいのう」
「とにかく無類の強さを発揮します」
「武田と上杉じゃな」
信長は柴田の話が一旦途切れたところでこう述べた。
「この二つの家とはじゃ。いや」
「いや?」
「いやとは」
「武田信玄と上杉謙信じゃな」
家から人に話を移したのだった。具体的には両家の当主であるこの二人だ。言わずと知れた天下で最も恐れられている二人である。
「この二人にはじゃ」
「そうは勝てませぬ」
「関東を制している北条ですら正面から戦おうとはしませぬ」
「あの相模の獅子ですら」
「北条氏康はあの二人と互角に戦える」
信長は氏康はこう評した。かなり高い評価と言える。
「実際にこれまで双方とそれぞれ戦ってきておるな」
「そのうえで敗れていません」
「流石と言うべきです」
「伊達に河越で勝ってはおりませぬか」
「そうじゃ。北条氏康も傑物じゃ」
信長はまた氏康を高く評した。その言葉には何の歯切れの悪さもなかった。
「しかしその相模の獅子でもじゃ」
「あの二人には勝てはしない」
「そういうことですか」
「そうじゃ。勝つにはまだ足りぬ」
「足りぬといいますと」
木下が主の今の言葉を聞いてだ。すぐにこう言ったのであった。
「兵と将ですな」
「わかるようじゃな、猿は」
「後は。武田や上杉の騎馬にも勝るものが必要ですな」
「その通りじゃ。まずは兵の数と将の質で圧倒する」
それからだというのであった。
「兵はそれだけの数を集める」
「武田、上杉の強兵に対することができるだけの兵」
「それだけをでございますか」
「戦の多くは数じゃ」
信長は戦の基本をここで述べた。
「兵が多く油断しておらぬ方が勝つ」
「だからこそでございますか」
「まずは数」
「兵の数でござるか」
「そうじゃ。如何に強い兵とて一度に三人の相手はできぬ」
これはまさにその通りだった。そうした意味でも数であった。
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