暁 〜小説投稿サイト〜
戦国異伝
第二十七話 刺客への悪戯その七

[8]前話 [2]次話

「殿が。ああして自分達の前に出て来るとは」
「思わぬか」
「その通りでございます」
 まさにそうだというのである。
「それがしも驚きました」
「だからこれは悪戯よ」
「それはもう聞いていますが」
「それをしたまでじゃ」
 こう素っ気無く言う信長だった。
「それだけではないか」
「それだけでござるか」
「そうじゃ。それでじゃ」
「それでとは」
「後は。上洛じゃな」
 いよいよそれだというのである。
「都にあがるか」
「遂に、ですな」
「はじめての都じゃな」
「はい」
 佐々は信長のその言葉に頷いて返した。
「まさにです」
「そうじゃ。はじめてじゃ」
「して殿」
 佐々はここでまた主に対して言う。
「都ですが」
「やはり荒れておるか」
「残念ですがそれは確かなようです」
 こう話すのだった。
「それもかなり」
「応仁の乱から。延暦寺が暴れ続けてじゃな」
「都の周りでの戦も止みませんでしたし」
「しかしとりわけ延暦寺じゃな」
「あの者達の横暴は目に余るようです」
 実際にだ。佐々は話しながらその顔を顰めさせていた。
「何かあると都に押し入り暴れ回ってです」
「都はその都度荒れじゃな」
「とにかくしたい放題だとか」
「平安の頃から変わらぬな」
 そこまで聞いてだ。信長はその顔を顰めさせた。
「何一つとしてな」
「白河院もどうにもできなかったという」
「院や帝ですらな」
「鎌倉幕府も敗れています」
 幕府もだった。彼等にしてもなのだ。
「そういう者達ですから」
「しかしじゃ」
「しかしとは」
「あのまま好き勝手にさせておく訳にはいかんな」
 信長の顔が闇夜の中で険しいものになった。
「それでもじゃ」
「しかし。あの者達は」
「どうにもできんか」
「延暦寺です」
 佐々が言う根拠はここにあった。
「あの寺に対しては。流石に」
「どうにもできぬというのじゃな」
「ですから。今まで」
「どうかのう。そう思っていてもじゃ」
「違うというのでございますか」
「世の中できんと思っていても実際はできることが多い」
 そうだというのだった。
「だからじゃ。延暦寺にしてもじゃ」
「できるやもというのですか」
「いや、せめばならん」
 言葉は強かった。さらにだ。
「是非共な」
「あの者達の横暴を止めると」
「それで困るのは誰じゃ」
 信長が問うのはこのことだった。
「誰が困るのじゃ。言ってみよ」
「民でござる」
 佐々は即答した。彼にしても尾張において政に携わっている。それで民の為に働いているからだ。だからこそ言えることであった。答えられることだった。
[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ