第二十六話 堺その十
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「全く。何を考えておるのじゃ」
「ですから悪戯を」
「それ程悪戯が好きか」
「その通りでござる」
慶次はここで胸を張って言い切った。
「それがそれがしの生きがいの一つであります故」
「呆れた奴じゃ。しかしじゃ」
「しかしといいますと」
「そういう。何というかな」
前田は袖の中で腕を組みだ。考える顔になって己と然程歳の離れていない甥に対して言う。傍から見ればまるで兄弟である。
「童心か」
「それがしの心がですか」
「そうじゃ。その童心がかえってよいのかのう」
「少なくともそれがしは下手な大人にはなり申さぬ」
「童心を忘れぬか」
「そうしたいものでありますな」
「それがそなたを武辺にしておるならよいか」
また甥に述べた。考える顔でだ。
「それならばのう」
「ですからそれがしは」
「ふべん者じゃというのだな」
「ぶへんではありませぬ」
またこう言う慶次だった。そこに妙なこだわりがある。
「身体も大きく飯も食います故」
「確かにな。よく食うわ」
叔父は甥のこのことも知っていた。それもかなりよくだ。
「馬の如くだからのう」
「松風と合わせて馬二匹分ですな」
「そうじゃな。まあ食うのはよい」
「よいのでございますか」
「悪戯に比べれば全く何ともない」
だからだというのである。
「だからよい。それはのう」
「また悪戯でござるか」
「この前もじゃ。わしが吸い物の蓋を開ければ」
寺での話だ。それを開ければどうだったかというのである。
「空だったしのう」
「いやあ、あまりにも美味くておかわりを」
「わしの拳骨の味はどうだった」
「たいそうなものでした」
しっかりと殴られたのである。前田のその拳を受ければ大抵の者はそれで伸されてしまうが慶次はそれを受けても平気なままであるのだ。
「いやいや、叔父御の御心を感じました」
「あの時は本気で怒ったぞ」
「それがよくわかりました」
「ありとあらゆる悪戯をありとあらゆる方法でするのう」
「それが悪戯の醍醐味でござる」
こんなことを言って悪びれない慶次であった。やはり彼は天性の悪戯者である。
その悪戯者を見ながらだ。また言う信長であった。
「ではわしも悪戯に励もうぞ」
「今から行かれますな」
「うむ、行って来る」
こう慶次達に告げる。
「暫し待っておれ」
「せめて共の一人でも連れられては」
佐久間が慎重案を述べてきた。
「最低でも」
「一人でもか」
「はい、それは如何でしょうか」
「そうじゃな。用心棒という訳じゃな」
「一人ではそれ程目立ちませぬし」
それでだという佐久間だった。
「ですから」
「ふむ。ではここはじゃ」
家臣達をざっと見回してだ。彼の名を呼んだ。
「内蔵助」
「はっ
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