第二十六話 堺その二
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「少しは政も学べ。只でさえ人が足りぬのに」
「いやいや、政はもう人がおるではありませぬか」
「新五郎殿にしても」
だが、だった。二人にそうしたことを聞く気配は全くなかった。見事なまでに。
「それがし達は戦の場で働きまする」
「それで宜しいではありませぬか」
「全く。困った奴等よ」
「まあ新五郎そう言うな」
口を尖らす林を信長が笑いながら止めた。
「この者達はこの者達で役立っておる」
「それはわかっておるのですが」
「少なくとも政は御主等がおる」
その林達がだというのだ。実際に彼等はその政の才覚と知識はかなりのものである。それで尾張はよくまとまっているのである。
「それにじゃ」
「それにといいますと」
「さっき言ったではないか。政をできる者はじゃ」
「武士だけに限らない」
「そうじゃ。そういうことじゃ」
信長が今話していたその話に戻った。
「政をわかる者は武士に限らぬ」
「そうなりますか」
「そこの猿もじゃ」
今度は木下を指し示して述べた。
「そもそも百姓ではないか」
「確かに」
そう言われるとだ。林も頷くのだった。
「猿は元々百姓でしたな」
「しかし政はできるな」
「はい、これで中々やります」
林も既にこのことがわかってきていた。実際に彼の働きを見てだ。そのうえでのことなのだ。
「戦の場よりもそちらの方が役立ちますな」
「ふん、確かに猿だがのう」
柴田は木下にはいささか辛口であった。
「武芸は駄目じゃがな」
「いや、これは手厳しい」
木下はその様な柴田に平伏する様子で返した。
「確かに。武芸に関しては」
「しかし殿が見込まれただけはある」
柴田は一応木下を褒めもしてきた。
「すばっしこいうえに頭が回るわ」
「それはどうも」
「わしは小回りは利かぬからのう」
その大柄さ故にである。柴田にそうしたことを求めること自体が無理なことであった。
「だから御主が羨ましくもある」
「権六が小回りが利けばそれはそれで不気味じゃのう」
また言う信長だった。
「御主は猪突猛進でよい」
「左様でございますか」
「戦でも政でもな。御主はそれでよいのじゃ」
柴田の特性をよく見極めての言葉だった。
「かえって小賢しいことは考えぬ方がよいな」
「それよりもですな」
「そなたはそれでよい。思う存分やるのじゃ」
柴田に対して暖かい目も向けている。まさに大器の目であった。
そんな話をしながら一行は港に向かう。堺の港は彼等がこれまで見てきた尾張の港とはだ。何もかもが全く違っていたのだった。
途方もなく巨大な波止場にだ。大きな船、しかも明や南蛮のものまでが何隻も停まり出たり入ったりしている。船乗り達の声があちこちから聞こえ縄が荷物が使われたり運ばれたり
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