第二十五話 堺へその九
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「その辺りで」
「そろそろ来るやも知れぬな」
信長もそれは読んでいるといった口調だった。
「若しくは都か帰り道でじゃ」
「そこで、でござるか」
「刺客共が来ますか」
「人ごみの中か油断したところにじゃ」
信長は刺客が一体どういった時に襲い掛かって来るかも考えていた。
「来るであろうな」
「では殿、堺では」
「我等が常に」
家臣達の目も光る。
「御護りしますので」
「御安心を」
「それがしがでござる」
特に柴田であった。彼はその巨体を揺らして出て来たのだった。
「常にお傍におります」
「権六、御主がか」
「左様で」
「目立つのう」
信長はその彼の巨体と髭だらけの雄々しいにも程がある顔を見て苦笑した。
「まことにのう」
「目立ってはいけませぬか」
「まあ御主の顔は上方では知られておらぬ」
信長はその柴田にこう述べた。
「それにわしの顔は刺客共も既に知っておるしな」
「さすれば」
「別によい。では頼むぞ」
「はっ、では」
「御主のその武勇は戦場以外でも役立つか」
「伊達に鍛えてはおりませぬ」
武骨そのものの声で答える柴田だった。
「刺客の十人や二十人この拳だけでも」
「退けそうだな、まさに」
「退けそうではござらぬ」
柴田は主の今の言葉は訂正にかかった。
「退けまする」
「左様か」
「はい、絶対にでござる」
こう言うのであった。
「さすれば。御安心を」
「わかった、それではな」
「いざという時はそれがしもおります」
今度は可児であった。
「それがしの槍があれば」
「御主もおるのう、そういえば」
「左様で。刺客共に笹を馳走させてやります」
「確かに御主の槍に適う者はそうはおらぬ」
その武辺ではだ。慶次に匹敵する程である。
「それこそ又左か慶次位よ、槍ならな」
「それがしもおりますので」
「それがしも」
今度は中川と蜂屋であった。
「赤母衣衆と黒母衣衆もです」
「しかとおりますぞ」
「そうよのう。そうしたことを思えば」
信長は彼等の言葉を受けても言うのであった。
「わしは何かと家臣が多いのう」
「武田や上杉より多いですな」
「今ここにいるだけでも」
「二十四や二十五ではわしは満足せん」
実際にそうだというのであった。信長本人もだ。
「より多くじゃ」
「となると百や二百でも足りませぬな」
ここで問うたのは坂井だった。
「それよりもさらに」
「天下を治めるのに百や二百ではまだ足りん」
天下をだ。やはり見ているのだった。
「到底のう」
「少しでも多くの才ある者を」
「そうされると」
「唐の太宗じゃったな」
名君として知られている。唐の基礎を築いた偉大な皇帝である。
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