暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン 〜仮面の鬼人〜
3話 銀狼
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嚇をする様子が無かった。
そもそも、狼というのは群れで行動する動物のはずだ。これがゲームだからといって単独行動するのはやや不思議な話だ。むしろそこは性質を生かして集団行動を取らせるべきなのだ。
俺はそっと打刀の手柄に手を伸ばしたが、狼が警戒していないと言うことが分かると自然と手が降りた。
「…………」
一匹狼、それを言うと孤立感を感じさせる物だった。周りから避けられているのか、自分から避けているのかは定かでは無いが、少なくとも一匹と言う事は確かだった。
その姿はどことなく自分に似ていて、面影を重ねていたのかも知れない。
俺はアイテムウインドウを開き、その中から獣の肉を取り出し、銀狼の前に向かって放り投げた。
何時もなら「……斬る」とか言って即座に愛刀の「血桜」でたたっ斬っているが、なぜしらその気にはなれなかった。このゲームを始めて狼に群れには何度か襲われた。だが、一匹で行動する狼を見たことが無かったと言う事もあるのだろう。物珍しさによる興味本位か、自分の面影を見たのかは自分にも分からない。
狼はその肉に対して何の警戒心を持つこと無く何度か臭いを嗅いだ後に肉にがっつき始めた。
「……じゃあな」
俺は狼が肉を食っているのを見るとその場を後にしようとした。
「クウゥン……」
だが、背後からは犬のように寂しそうに鳴く狼が居た。
「……肉はもうね―ぞ」
「クウゥン……」
狼の声は変わらなかった。
しかし、俺はそんなことを気に止めることは鳴く前に足を進めた。雪を踏みしめる音がザッザッザッ、とする中、不思議なことに軽い小さな音が背後からした。
「…………」
足を少しは止めるが、それに合わせて背後の音も早くなった。
「…………」
さらに足を速めるものの、背後の音はさらに早くなった。
俺はうすうす気づいていた。振り返るまでも無い。パーティーを組んだ経験の無い俺にとって今日の行いの内で後ろに付いてくる心当たりは一つしか無い。
「……」
俺が足を止めると背後の音もピタリと止まった。
ゆっくりと後ろを振り返るとやはり先ほどの銀狼が居た。
「肉は無いって言っただろ、何か欲しい物でもあるのか?」
そう問う俺だったが、狼は首を横に振った。言葉が通じているのだろうか、それともニュアンスだろうか、それは定かでは無い。
「……俺もお前も一匹狼だ。来るか?」
「ガウッ!」
銀狼と仮面の鬼人、一匹と一人の一匹狼達にはお互いに退かれる物があったのだろう。
何も分かっていなくても本能で引き寄せる物があった。
狼には「エリル」と名付けられ、その後の攻略戦でも仮面の鬼人の名はさらに高まったという。そして「仮面の鬼人、銀狼を連れたビーストテイマーとなった!!」と言う記事で新聞を賑わせた。
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