第二十五話 堺へその二
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「それを念頭に置いております」
「あくまで殿が求められるのは大義ですか」
「国は天下のものです」
謙信は国、即ち領地についてはこういった考えであった。だからこそ領地を拡大しようという他の大名の様な野心はないのである。
そしてだ。謙信は直江にこうも言うのだった。
「それを人が求めることは愚かです」
「そして名誉もですね」
「死ねば終わりのものです」
ここでは達観めいたものを見せるのだった。
「それを求めて何になりましょう」
「だからこそ大義をですか」
「大義は永遠に残り」
そしてというのである。
「そのうえ天下万民に多くのものを残します」
「成程、それは殿の目指されるものですか」
「その通りです。これでわかりましたね」
「はい、それではそれがしは」
「どうするのですか、そなたは」
「その殿と共に」
あらためてだ。謙信にこう言うのだった。
「天下の大義を求めさせてもらいます」
「大義の道は険しいです」
謙信の声はここで鋭いものになった。
「決して平坦なものではありません」
「はい、それは承知のうえです」
「それでもいいというのならです」
謙信は直江のその真っ直ぐな目を見ながら言葉を続けていく。その謙信の言葉もまた真っ直ぐなものである。それを言うのである。
「私と共に歩むのです」
「はい、そうさせて頂きます」
「この麻の如く乱れた天下を正し民の平穏を取り戻します」
これが謙信の夢だった。そしてその為には。
「朝廷、幕府の権威を取り戻しそれにより天下を治めるのです」
「上杉はその為にあるのですね」
「私もまたです」
その上杉の主である謙信自身もというのだ。他ならぬ。
「それは同じです」
「では殿」
「我等もまた」
ここでだ。二十五将達も来た。謙信に絶対の忠誠を誓い手足となって動いている彼等がだ。
「及ばずながらです」
「殿と共に」
「参りましょう」
謙信は彼等にも応えた。馬上で正面を見据えながら。
「その大義の道に」
「はい、それでは」
「今より」
こうしてであった。彼等は今大義の道を歩むのだった。それが謙信の道であり謙信を慕う者達の道であった。それは険しいが大きな道だった。
そして信長は。奈良においてその町並を見ていた。
「ふむ。奈良もだな」
「如何でしょうか、奈良は」
「この町は」
「手が行き届ききっておらぬ」
こう言うのであった。
「まだな」
「確かに。思った以上には」
「栄えておりませぬな」
「噂程では」
家臣達も信長のその言葉に頷く。
「寺社もあまりいいとは言えませんな」
「何処も」
「やはり大和自体が」
「そうじゃ。この国もややこしいことになっておる」
信長はここで大和のこと自体を話した。
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