第二十三話 上洛その五
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「政も戦もな」
「左様ですね。憂いはありませんね」
「その様なものは残してはおらぬ」
信長は笑ってそれは否定した。そうした言葉だった。
「そなたもじゃ。よいな」
「わかっています」
「まあわしがいない間は寂しいだろうがな」
「それを待つのも妻の務め」
微笑んでこう返すその妻だった。
「御安心下さい」
「むしろそなたは」
「私は」
「わしのいない間に馬を荒く駆ったりしてじゃ」
そうすればどうなるか。信長の話は少し飛躍した。
「怪我なぞせぬようにな」
「御安心下さい、それはありませぬ」
「不覚は取らぬか」
「殿と同じでございます」
己の夫とだという。帰蝶の笑みはここでも健在であった。
「ですから」
「ううむ、口が減らぬのう」
「さもなければ殿の妻ではいられませぬ」
「全く。言いよるわ」
信長はついつい弱ったような顔を見せる。妻や親しい家臣達にだけしか見せぬ顔であった。その顔を出したうえでの言葉だった。
「しかしよい。それではじゃ」
「はい、では」
「行って来るぞ」
こうしてであった。信長は妻に別れの挨拶を告げ上洛の旅についた。その道中多くの家臣達も同行している。その中でだった。
慶次がだ。巨大な黒馬に乗りながら言うのであった。
「さて、心残りは」
「何だというのじゃ?」
「平手殿への選別がなかったことよ」
それだとだ。佐々に残念そうに語るのであった。
「それがなかったことじゃ」
「何じゃ?今度は何をするつもりだったのじゃ」
「うむ、平手殿の味噌にじゃ」
「それにか」
「唐辛子をたっぷりと仕込んでおこうと思っておったのじゃが」
こんなことを話すのだった。
「それをせぬまま。こうして発つとは」
「それが心残りか」
「いや、それを食べた平手殿がどれだけ怒るか」
そんなことをすればどうなるのか、彼は話を続ける。
「そこから逃げて上洛をはじめたかったのだがのう」
「傾くのう、相変わらず」
金森がそれを聞いて思わず言った。
「そうした悪戯もか」
「するぞ。それはわしの趣味じゃ」
悪戯がだというのだ。
「平手殿の様な方に仕掛けるのもじゃ」
「傾奇じゃな」
「左様、そうじゃ」
こう話すのである。
「それをせずままとは」
「すればそれこそ御前はじゃ」
前田が甥に呆れながら告げる。彼の横に己の馬をやってだ。
「平手殿にとことんまで殴られるぞ」
「あの拳でか」
「そうした時の平手殿は強い」
怒った場合の彼はだというのだ。
「滅法な」
「そうじゃな。わしでも負ける」
個人の武勇では織田家随一の慶次であってもだというのだ。
「一発一発が尋常ではないからのう」
「しかもその一発が無数に来るからのう」
「たまったものではない。し
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