第二十二話 策には策でその七
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「生憎だがここでだ」
「御主には死んでもらう」
「そうですな。それがしはどうしても討たねばなりますまい」
また自分から言う津々木だった。
「しかしです」
「逃げられると思うておるのか」
「普通では無理です」
信長にだ。笑みのまま返すのだった。
「それはやはり」
「では覚悟するのじゃな」
「ですがそれがしは普通ではござらんので」
「逃げられると申すか」
「はい」
その通りだとだ。臆面もなく返すのであった。
「それを今御覧に見せましょう」
「兄上、御気をつけを」
信行が兄を横目で見ながら告げる。彼も構えに入っている。
「この者の術は」
「わかっておる、目じゃな」
「はい、目を見てはなりませぬ」
そうだとだ。兄に話すのだった。川尻もそれを聞いていることをわかったうえでだ。そうしてこう兄に対してこのことを話したのである。
「決して」
「で、あるか」
「そうです。それで御願いします」
「そうじゃな。目に気をつけ」
「確かに目も使います」
津々木がここでも言う。
「しかしでございます」
「目だけではないというのか」
「左様。こうして」
この言葉と共にであった。不意に。
津々木の姿が消えた。まさに三人が気付いたその時にはだった。
「消えた!?」
「まさか」
「何処にだ」
「ははは、まさかです」
何処からともなくだ。彼の声だけが聞こえてきた。
「それがしがこうした術も使えるとは思いますまい」
「何処におる」
「既にここにはおりませぬ」
つまり声だけだというのである。
「それがし、これで尾張を去りまする」
「逃げるつもりじゃな」
「左様、最早尾張では策を弄することはできませぬ故」
それでだというのだ。
「信長様がそこまで警戒を持たれたならば」
「しかしよ」
だが、というのだった。信長はその声に己の鋭い声をぶつけていた。
「このこと、忘れはせぬ」
「忘れぬですか」
「そなたのこともよ。決して忘れぬ」
こう彼に告げるのである。
「してじゃ」
「そして?」
「その首何時か貰い受ける」
上を見上げていた。声がそこからしているからである。
「よいな、覚えておれ」
「そうですな。また機会があれば」
「わしの前に出ると申すか」
「そうさせてもらいます」
「してその時はじゃ」
信長からの言葉だった。
「覚えておくことじゃ」
「そうですな。その時を楽しみにしております」
こうしてだった。津々木は何処かへと姿を消した。その行方は探されたが何処にも見つからなかった。完全に消え失せてしまっていた。
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