第二十二話 策には策でその四
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津々木であった。信行の目を見てきた。しかしだ。
信行はここで兄との話を思い出してだ。咄嗟にこうしたのだった。
「むっ」
「どうしたのですか」
「いや、何か落とした」
こう言ってだ。下を見たのである。それで彼の目から己の目を逸らしたのだ。
「何なのか」
「はて。別に何も落としていないようですが」
「そうか」
「はい、ですから別に」
「ならいいがな」
「そしてなのですが」
津々木はさらに言ってきた。
「宜しいでしょうか」
「何だ、一体」
「はい、どうやらです」
津々木のその言葉がだ。暗く低いものになってきた。そうしての言葉だった。
「殿がです」
「兄上がか」
「勘十郎殿のお命をです」
こう囁いてきたのである。
「狙われているとか」
「それはまことか」
「どうやら」
彼が言う言葉はこれだった。
「して清洲に呼び出されておるのですな」
「そうだ」
信行はここでは芝居をしていた。既に目の前にいる男がどういった者かは把握している。そのうえでだった。彼は合わせているのだった。
そのうえでだ。彼はこう言うのであった。
「兄上が落馬されたとのことだ」
「殿がですか」
「さて、どうしたものか」
「行くべきです」
すぐに言う津々木だった。
「ここはです」
「そなたはそう思うか」
「そうしなければ勘十郎様は今度こそです」
「再び謀叛の嫌疑でだな」
ですから。ここはです」
「そうだな」
頷いてみせてであった。それで決まりだった。
信行は彼を連れて清洲に向かった。それを聞いてであった。
信長は床から起きていた。そこに座って川尻に言うのである。
「いよいよだぞ」
「来ましたか」
「うむ、信行もどうやら」
川尻に対してだ。笑みを浮かべながら話すのだった。
「役者のようじゃな」
「そうですな。勘十郎様もあれで」
「そういうことは不得手だと思っておった」
これが信長の見たところの信行であった。
「器用ではないからのう」
「勘十郎様は器用ではありませんか」
「真面目にこつこつやることは得意じゃ」
確かにその通りだった。信行はその生真面目で折り目正しい性格故にそうしたことは得意なのである。しかし機転となるとなのだ。
「あれに機転があれば鬼に金棒よ」
「戦でも強かったでしょうな」
「そうじゃ。あ奴は機転とかそういうことを持っておらんからのう」
「そこが難しいところですな」
「しかし演じることはできたな」
「はい」
それはだというのである。
「確かに」
「それはよいとしよう。それでじゃ」
「それがしはこのまま暫く引っ込んでいればいいのですね」
「うむ。狙うのはわかるな」
「はい、あの男の首でござる」
それが誰かはもう言うまでもない
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