第二十一話 一喝その七
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「だが。乱破、それか」
「それか?」
「他には」
「他のよからぬ者ならばだ」
信長は本能的にだ。その場合も考えていた。
「見つからぬやもな」
「まさか。それは」
「有り得ぬかと思いますが」
「殿、おそらくは」
柴田と佐久間は主のその言葉にいぶかしみだ。林通勝は常識的なことを述べてきた。
「斉藤か今川の手の者でしょう」
「そうですな。まずどちらかです」
兄の言葉に続いてだ。林通具もそうではないかというのだった。
「そうした術を使える者もいるでしょうし」
「だとすればよいのだがな」
信長の言葉に深刻なものが宿ってきていた。
「只の乱破の類ならばな」
「といいますと?」
「違うと仰るのですが」
「いや、わからん」
信長にしては珍しくだ。その言葉が濁った。
「あの者。これまでも氏素性が知れなんだ」
「はい、全くです」
「そういったものは何一つとして」
「わかっておりません」
「捕らえればそれを言わせる」
信長もそのつもりであった。
「謀叛の張本人としてな」
「首を刎ねますね」
「そうされるのは当然ですな」
「そのつもりよ。決して逃さぬ」
言葉の強いものが戻っていた。
「よいな、それではじゃ」
「はい、それでは」
「あの者。何としても」
「してじゃ。勘十郎よ」
信行に顔を戻した。ここまで話してだ。
「そなたのことじゃが」
「はっ、さすればどんな処罰も」
「処罰か」
「どの様なものでも」
信行は既に覚悟を決めていた。それは顔にも出ていた。
しかしである。信長はだ。その弟に対してこう告げるのであった。
「よい」
「よいとは」
「そなたは操られていただけだ」
これが弟への言葉だった。
「だからだ。処罰するつもりはない」
「しかしそれでは」
「何じゃ、どうしてもというのか」
「はい、そうでなければ示しがつきません」
生真面目な信行らしい言葉だった。それは自分自身に対してもであった。
「ですから。ここは」
「そうじゃな。それではじゃ」
ここまで言われてはだった。信長としても弟の言葉を受けないわけにはいかなかった。若しここで不問とすればだそれこそ自決しかねない、それを見抜いたのである。
しかしであった。ここで家臣達が一斉に出て来て言うのであった。
「殿、それはです」
「勘十郎様がおられなくては」
「殿の片腕がなくなります」
「それでもよいのです」
こう言ってだ。必死に信行の助命を求めるのだった。
「何とぞ。ここはです」
「慎重なご判断を」
「くれぐれも御願いします」
誰一人として信長に申し出ない者はいなかった。しかしそれを見てである。
信長は何かを見越している目であった。まるで彼等がそうするのをわかっていたかの様に
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