第十九話 夫婦その十
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「まさに天下を左右できる方だというのに」
「わしもそう思う」
霧隠もその己の主を見て述べる。
「以前は越前の宗滴様の下にいたのだが」
「おお、あの方か」
その名を聞いてだ。海野が問う。
「越前を支えられるご老公だな」
「そうだ。あの方は言っておられた」
懐かしい目になってだ。語る霧隠であった。
「わしに相応しい主を見つけよとな」
「それで出会ったな」
「我等の殿に」
「そうだな」
「そうだ。殿はまさに天下の英傑」
そうだというのだった。
「必ずや。大きなことをされるぞ」
「ははは、そんなことはどうでもいいのだ」
幸村は霧隠のその言葉に顔を崩して笑った。
「わしは天下に名を残そうとは思わぬ」
「では一国一城の主には」
「それとも位を極められるか」
望月と筧が問う。
「殿ならばです」
「どちらもできますか」
「だからどれも興味がないのだ」
こう言ってだ。幸村自身からこのことも話した。
「無論財にもだ。興味はないぞ」
「無欲ですなあ」
「全くです」
由利と伊三は驚嘆さえしている。
「では殿の夢は」
「やはり」
「そうよ、御館様に尽くすこと」
確かな笑みでだ。彼は言った。
「それこそがわしの夢よ」
「そして領民達を幸せにすることですな」
「それですな」
根津と穴山がこう問うた。
「そしてその為に」
「殿は精進を続けられますか」
「精進あるのみ」
今度の言葉は強かった。
「さもなければどうして御館様の為に動ける」
「それはその通りです」
「わしもそう思います」
「わしもです」
十勇士達もそのことを認める。
「そして領民達を護る為にも」
「やはりそれなりの力が必要です」
「その力を手に入れる為に」
「そういうことですな」
「その通りよ。わしはその為に己を磨く」
槍は振るい続けている。全身から滝の如く流れ出る汗が飛び散る。それが白銀の光を放ち若武者を雄々しく照らし出すのであった。
「こうしてだ」
「さすれば殿」
「我等もです」
「お供させてもらいます」
十勇士達もだ。笑顔になり彼に告げたのだった。
「これから何処までも」
「殿と共に」
「歩いていきましょう」
「頼むぞ。それではだ」
幸村はだ。その彼等を見てだった。
鍛錬を続けながら。一言告げた。
「来るのだ」
「共に鍛錬をですな」
「さすれば」
「何時でも何処からでもかかって来るのだ」
槍の動きを止めた。そのうえで構えながらの言葉だった。
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