第十九話 夫婦その八
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「それはやはり大事だ」
「今川殿はそれにあまりにもこだわっておられるのですな」
「名門であるが故に」
「だからこそ」
「そういうことよ。こだわり過ぎてはよくない」
信玄の顔も言葉も難しいものであった。
「何でもそうだがな」
「左様ですか」
「では我等もまた」
「そのことを肝に銘じておきます」
「これは戦でも政でも同じじゃ」
どちらについてもというのであった。信玄はだ。
「そのどちらでもじゃ」
「同じでございますか」
「こだわり過ぎては」
「弓矢にも騎馬にもこだわることはない」
信玄はその戦についても語る。
「鉄砲もこれからはどんどん手に入れたいものよ」
「左様ですな。高いですが」
「それでも」
鉄砲についてだ。武田もまた注目していた。それでこう家臣達がそれぞれ言うのであった。
「手に入れていきたいものです」
「是非共」
「そういうことよ。よいな」
信玄の言葉が決するものになった。
「鉄砲の数を増やせ」
「では堺にも人をやり」
「商人達を介して」
「できれば領内で作りたいものですが」
原がこんなことを言った。
「流石にそれは無理ですな」
「武田では」
「それは」
「その通りだ」
それは信玄も否定しないのだった。
「鉄砲は欲しい」
「できるなら我等の手で作りたい」
「しかしですな」
「それだけは我等でも」
「できませぬ」
「鉄砲を作る技は国友や薩摩に限られております」
武田信繁の言葉だ。
「ですから」
「我等は買うしかありませぬ」
「高い金を出して」
「都に出れば違うのだがな」
信玄はここで都と言った。
「さすればな」
「ではやはりやがては」
「その意味でもですな」
「都に」
「我等の旗を立てましょうぞ」
「その通りだ。わかっておるな」
信玄の声があらたまった。そのうえでの言葉になっていた。
「我等の目指すものはだ」
「はい、上洛です」
「都に上りそして」
「天下を」
「わしは将軍にはなれぬ」
これは家柄から考えてのことである。武田は確かに甲斐源氏嫡流の名門である。しかし将軍継承権は持っていないのだ。
「公方様を盛り立てようぞ」
「ですな。我等は」
「そうして天下を手に入れましょう」
「それが武田の採るべき道です」
二十四将の誰もが信玄が将軍になるとか幕府を簒奪するとかいったことは考えていなかった。信玄自身もそれは同じである。
彼等はあくまで幕府の中で考えているのだった。しかし確かに天下を手に入れんと考えている。このことは確かであるのだった。
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