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戦国異伝
第十九話 夫婦その五

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「それはだ。わからんぞ」
「しかし美濃の主は息子の斉藤義龍のものになりました」
「それは最早間違いありません」
「それでもですか」
「そうだ、今は戦国の世だ」
 その中心にいる者の一人だからこそ。彼が言えた言葉だった。
「ならばだ」
「その座も危うい」
「左様ですか」
「そうだ、そしてだ」
 信玄の言葉は続く。
「その美濃を手に入れるのはだ」
「近江の浅井か六角か」
「どちらかでしょうか」
「いや、あの者達は互いに激しくいがみ合っている」
 信玄は近江のことも知っていた。浅井と六角がまさに仇敵同士の関係にあることもだ。彼は実によく知っているのであった。彼の目は遠くまで見えるのである。
「美濃に攻め入る余裕はない」
「そして信濃にいる我等もまた」
「今はとてもですね」
「攻め入ることはできません」
「今は」
「まずは政よ」
 信玄は言った。
「それをせねばならん」
「この信濃を万全に治める」
「まずはそれですね」
「戦で手に入れたあの地を」
「そうだ、治めるのだ」
 やはり信玄であった。彼は戦よりも政を見ていた。幾多の激戦の末に手に入れた信濃をだ。万端の状態にすることを考えているのだった。
 それを念頭に置いてだ。彼は今家臣達に語るのであった。
「わかっておるな」
「無論です」
「次に動くのはそれからですね」
「信濃をまとめてから」
「そのうえで」
「上杉もおる」
 越後の上杉謙信のことも忘れていなかった。
「その為に海津に城を築いた」
「はい」
 一際若く整った、誰もがその目を止めんばかりの美男が応えた。高坂である。
「そしてそれがしがあの城に入り」
「左様、あの地を抑え川中島で食い止める」
 今いる甲斐からその川中島まで。信玄は頭の中で描いて語ってもいた。
「そうして信濃を治めていく」
「それが整ってからですな」
「我等がまた動くのは」
「では」
「それで、ですが」
 山本がだ。信玄に問うてきた。
「殿、その美濃ですが」
「あの国は誰が手中に収めるのか」
「そのことでございますが」
「一人おる」
 ここで信玄は言った。
「恐ろしい男がな」
「とうとやはり」
「あの男ですか」
「尾張の蛟龍」
 その男の名前がだ。彼等の中から出るのだった。
「織田信長」
「あの青い軍の男ですな」
「そうよ。織田信長よ」
 信玄もだ。彼だというのである。
「あの男こそが美濃を手に入れる。間違いなくな」
「そういえばです」
 次に言ってきたのは穴山だった。
「織田は斉藤道三から美濃を譲り受けると文を貰ったとか」
「その様だな」
「ではそれを大義にして、ですな」
「それだけではない」
 信玄はさらに話す。
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