第十九話 夫婦その三
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そしてだ。清洲の城においてだった。
帰蝶と二人にいる時にだ。彼女に声をかけられたのだった。
「あの」
「むっ、何じゃ」
「父上が亡くなられ」
帰蝶は珍しく曇った顔になっている。そのうえでの言葉だった。
「それで私ですが」
「そなたがどうしたのじゃ」
「よいのですか。ここにいて」
こう信長に対して問うのだった。
「尾張に」
「おかしなことを言うのう」
信長は帰蝶の今の言葉を聞いてだ。横にいる彼女の顔を見てだ。そのうえで笑いながら彼に対して話すのであった。
「わしは何とも思っておらぬぞ」
「左様ですか」
「わしはいらぬ者は最初から傍に置いたり用いたりせぬ」
信長の信条はここでも述べられた。
「それは変わらぬぞ」
「では私は」
「誰か言っておるのか?」
信長の顔はここでは怪訝なものになった。
「その様なことを」
「いえ、それは」
「言う筈もない」
信長は笑って話した。
「何故ならそなたはだ」
「私は」
「わしの妻じゃ」
こうその帰蝶に話すのであった。
「だからじゃ。誰も言うことはない」
「そうなのですか」
「そなたも見てもじゃ」
その彼女自身を見てもだというのである。
「それはないわ」
「私自身をですか」
「そなたは完全に織田家の者となっただけではない」
それだけではないとだ。その帰蝶に話す。
「そなたの心を見てじゃ」
「私の心を」
「それも見てじゃ。そなたは認められておるのじゃ」
「そうなのですか」
「何ならじゃ。間も無く戦になる」
そうしてであった。信長はその帰蝶にこう話した。
「そなた、やれるか」
「きの清洲の守りを」
「そうじゃ、話がわかるな」
帰蝶の頭の回転の速さがここで出た。彼女のそれは信長と比べても全く遜色のない程だった。信長もそれを見て告げるのであった。
「わしはこれよりあえて清洲を空ける」
「主力を率いられて」
「その間清洲に殆ど兵は残らぬ」
「その清洲の守りをですね」
「そなたがやってみよ」
こう帰蝶に言う。
「それで家の者達にあらためて認めさせるというのはどうじゃ」
「私がですね」
「おなごでも戦うのが今じゃ」
戦国の世だからである。時に応じては女であろうとも鎧を着て薙刀を持ち戦う。それが戦国なのだ。
そしてであった。信長はそのことを踏まえて己の妻に話すのだった。
「そなたはじゃ」
「はい、私は」
「おなごだが馬にも見事に乗るし薙刀も使える」
「だからですか」
「それで軍略も見せてみよ。蝮の娘としてな」
「そして貴方様の妻として」
「やってみせよ」
帰蝶のその目を見てだ。そのうえでの言葉だった。
「よいな」
「わかりました」
帰蝶も夫のその言葉に頷く。そうしてであった。
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