第十八話 道三の最期その九
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道三の兵達は主を取り囲んで守ってだ。そのうえで彼に言うのだった。
「殿、こちらに参上しました」
「遅れて申し訳ありません」
「よい」
遅参への謝罪はいいとした道三だった。しかしその彼等にこう問うのだった。
「しかしだ」
「しかしとは」
「何が」
「残ったのはそなた達だけか」
道三が問うのはこのことだった。
「最早残っているのは」
「おそらく」
「これだけです」
「今残っているのは」
「そうか」
道三はここまで聞いて大きく頷いた。そのうえでだった。
「ならばそなた達はだ」
「はい」
「どうされよと」
「最早逃げ落ちることは叶わぬな」
城の至るところから火が出ていた。そして見えるのは義龍方の兵ばかりである。それでどうして逃げられようかというのであった。
「これではな」
「我等、ここで最後まで戦います」
「若しくは腹を切るか」
「わしと共に死ぬつもりか」
彼等の言葉を受けてだった。道三はこうも述べたのだった。
「そのつもりか」
「ですから残ったのではありませんか」
「それは違いますか」
「あの時にそう」
「誓いました故」
「そうだったな。それではだ」
彼等の心をそこまで知りだった。道三はあらためて話した。
「ではだ」
「大殿はどうされますか」
「戦われますか、それとも」
「腹を」
「戦うのもよいが」
道三はその選択肢もよしとした。しかしであった。
少し目を閉じてからだ。こう彼等に告げたのだった。
「この首渡すだけの者は見当たらぬ。それではじゃ」
「腹を切られますか」
「そうされるのですね」
「丁度よい場所がある」
見上げればそこにだった。櫓があった。それを見上げての言葉だった。
「あそこに入りそのうえでじゃ」
「腹を切られますか」
「あの場所で」
「そうするとしよう。そして腹を切りじゃ」
「櫓に火をかけ」
「その中で、ですか」
「この首を渡せるだけの者がおれば違ったが」
そうした者がいなかった。だからこその言葉だった。
「それではそうする。ではな」
「では。腹を切られるまではです」
「我等が時間を稼ぎます」
「その間に」
「頼んだぞ。それではだ」
こうして道三は櫓に入りその中でだった。正座して腹を開いた。
周りは既に紅蓮の炎に包まれようとしていた。まだ昼だというのに見えるのは炎と煙ばかりで夜の中に燃え盛っているかの如くだった。
その中でだ。彼は一人呟いたのだった。
「帰蝶よ、二人で達者でな」
娘に告げてだった。そのうえで。
腹に刃を突き立てた。それが美濃の蝮と言われた一代の梟雄斉藤道三の最期であった。腹を切り倒れ伏した直後にであった。
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