第十七話 美濃の異変その十三
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「無論兄弟のおる者もだ」
「では。死んでも誰も悲しまない者だけで、ですか」
「この度の戦を行うと」
「そうされるのですね」
「そうよ、この戦い勝てるものではない」
そのことはもうわかっていることだった。誰でもだ。
「そしてわしの首は何があろうとも手に入れようとするであろう。さすればよ」
「親兄弟、妻子のいる者は」
「去らせてですか」
「その他にも去りたい者は去れ」
こうも告げるのだった。
「よいな、死んでもよい者だけが残れ」
「そうして戦えと」
「この鷺山城で」
「そうじゃ、これでわかったな」
「はい、ですがそれでは」
「兵は殆ど残りませんが」
「構わん」
また言う道三だった。毅然とさえしてだ。
「この戦は勝てるものではないからだ」
「死ぬ戦だからこそ」
「僅かな兵だけでもよい」
「左様ですか」
「身寄りがおらぬ者も命が惜しければ去れ」
またこのことを話す道三だった。
「わかったな」
「いえ、殿」
しかしだった。ここで一人の精悍な武者が出て来たのであった。
背は高くその右肩に笹の葉を刺している。背は高く顔には彫があり引き締まっている。その彼が道三の前に進み出て言うのだった。
「それがしも」
「そなたは確か」
「可児でござる」
こう名乗る男だった。
「可児才蔵でござる」
「そうだったな。確か御主も」
「親がいますが御気になされぬように」
「馬鹿を申せ」
すぐにそれは拒む道三だった。
「わしは今言ったな」
「ですがそれは」
「御主も駄目だ。ここは去れ」
「しかしです。それがしは」
「そなたが戦う場はここではない」
道三は可児に厳しい声を告げ続ける。
「そして使えるべき主もだ」
「大殿ではないと」
「丁度よい。そなたにだ」
「それがしにでござるか」
「頼みたいことがある」
己の前でその大柄な身体を平伏させる可児への言葉である。
「よいか」
「一体何でしょうか」
「そなたにこれを渡す」
懐からあるものを出した。それは。
「木の札でござるな」
「如何にも。これを持ってだ」
「はい、一体どうせよと」
「尾張に行け」
これが可児に命じたことだった。
「よいな、尾張に行くのだ」
「そしてどうされよと」
「そのまま婿殿の家臣となるのだ。わしの言葉をそのまま伝えてじゃ」
「ではそれがしはこれからは」
「織田の家臣になれ。よいな」
「そしてそこで戦をせよと」
「うむ、そなたの力存分に振るうがいい」
そしてだった。ほかの家臣達にも告げるのだった。
「御主等もだ」
「仕えるのならばですか」
「尾張の婿殿に」
「左様じゃ、して可児よ」
またしても可児に声をかけた。
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