第十七話 美濃の異変その三
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「それで如何でしょうか」
「五郎左もそれでよいと思うな」
「勘十郎様に落ち度はありませぬ」
これは誰もがわかっていた。信長でさえもだ。
「操られているだけですから。しかも得体の知れぬ術で」
「忍術にはそうしたものもあります」
忍の出の滝川の言葉だ。
「かなりの使い手でない限り使えませぬがそれでもです」
「ではあの者忍か」
「どの家の者だ?」
「今川か?」
まずは今川が疑われた。織田との関係を考えればこれは当然のことだった。
「若しくは斉藤義龍の手の者か」
「それとも伊勢の者の誰かか」
「一体誰だ」
「どうなのだ」
「待て」
信長は家臣達の話し合いはここでは止めた。そのうえでまた話すのであった。
「勘十郎に落ち度はないか」
「はい、そう思います」
「それは殿も考えておられるのではないのですか」
「それは違いますか」
「普通ならそう言う」
言う、と述べるのであった。
「普通ならばな」
「といいますと」
「今は違う」
「そう仰るのですか」
「そうよ、勘十郎はわしのすぐ下の弟ぞ」
このことが重要だった。彼の弟であるということがだ。
「一門の中で筆頭となる者だ」
「殿の片腕として」
「そうしてですね」
「あれは戦は上手くない」
これは認めるのだった。誰でも得手不得手があるが信行は戦はあまり得意ではなかった。馬も剣も弓も兄程できはしないのだ。
「しかし政はよい」
「確かに。何かとよく見られます」
「政なら何でもそつなくこなされます」
「そうした方でござるな」
「その勘十郎が得体の知れぬ者に操られたとあってはどうだ」
信長が家臣達に問うのはこのことだった。
「織田家にとってはどうだ」
「その威信に関わりますな」
「まさに」
「それは」
「そういうことだ」
これこそがだ。信長の言いたいことであった。
「まず勘十郎に落ち度自体はない」
「はい」
「さすれば御命はですか」
「取るつもりは最初からない」
信長もこれは考えていなかった。完全にだ。
「ましてやあ奴は織田家に必要な者だからのう」
「左様です、ですから」
「それだけはなりません」
「勘十郎様の御命だけはです」
「だからわかっておる」
またこのことを言う信長だった。
「それは絶対にないから安心せよ」
「むしろ津々木です」
「あの者は何があろうともです」
「討つべきです」
「今すぐにでも」
「確かにあ奴は討つ」
信長はこのことについても既に決めているのだった。だがその決めたことは信行に対するのとは全くの正反対であったのである。
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