第十六話 正装その十三
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「そんなことはな」
「そうですか。ではここは気にせずにですな」
「美濃に帰る」
「そうされますか」
「そうよ。しかし」
ここでだ。義龍の顔に暗いものが宿った。そのうえで言うのであった。
「どうもな」
「はい、大殿はどうやら」
「あのうつけ殿を御気に召されたようです」
「それは間違いありませんな」
「どう見ても」
「そうじゃな」
義龍も言う。
「それは間違いないな」
「それにです。美濃にも」
「弟君達がおられます」
「うかうかしていてはです」
「殿にもよくありません」
「わかっている」
これが義龍の返答だった。
「ではだ。稲葉山に戻り機を窺いだ」
「やはりですか」
「そうされますか」
「動くなら早い方がいい」
既にであった。彼は決めていた。そうした顔と声だった。そのうえでの言葉だった。
そんな話をする彼等だった。だが道三は今はその彼等からは離れていた。そうしてそのうえで三人衆や不破に竹中、それと明智に細川を交えて話をしていた。
その他には道三に忠実な者達が集まっている。まずはその彼等の言葉を聞くのであった。
「やはり婿殿は」
「全くでござるな」
「うつけ殿でござる」
「そうとしか言いようがありませぬな」
「真に」
「ふむ」
その彼等の言葉を聞いてだ。道三は静かに言うのであった。
「そなた等はそう思うか」
「はい、あの服を見ればです」
「ここに来るまでのあの格好」
「あれはやはり」
「うつけ殿です」
「ではだ」
しかしであった。ここで三人衆達に顔を向ける。そのうえで彼等にも問うた。
「そなた等はどうか」
「殿と同じです」
「同じ考えです」
「我等は」
「そうだな。わしはこう思う」
こう前置きしてだ。彼は言った。
「わしの息子達も孫達もやがてな」
「やがて?」
「やがてといいますと」
「何かあるのですか」
「やがて婿殿の前で馬を揃えてつなげるな」
「なっ・・・・・・」
「それは」
今の道三の言葉が何を意味するのかはもう言うまでもなかった。
美濃が信長のものになる、それ以外のどんな意味でもないからだ。
それで彼等が戸惑っているとだ。彼はさらに話した。
「それはやがてわかる」
「ううむ、それは世辞ではありませぬな」
「違いますな、やはり」
「それは」
「わしは世辞は言わぬぞ」
これは確かだった。少なくとも道三はそうした人間ではない。世辞は言わないのだ。
それでだ。彼はさらに言うのであった。
「こうした場合にはまことのことしかよ」
「ではやはり」
「あの婿殿はですか」
「かなりの者だと」
「美濃を手中に収めるまでの」
「美濃だけではない」
道三の言葉はさらに大きいものになる。
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