第十六話 正装その十二
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「だが母上がのう」
「ですから言っていたではありませぬか」
平手がここで主に言う。ここでもだった。
「お母上のところでは。真面目な格好でと」
「やれやれ、そんなことはのう」
「お嫌だと仰るのですね」
「そうじゃ。それはじゃ」
やはり嫌だというのだった。
「それで天女の姿で出たらじゃ。母上の怒られること怒られること」
「そんなお姿で出られれば当然では?」
「よく親子の縁を切られなかったものです」
「全く。傾くにも程があります」
「全くです」
これには家臣達の殆どが呆れてしまった。呆れていないのは桁外れの傾き者である慶次だけだ。他の者は皆そうであった。
そうしてだ。また言う彼等だった。
「それで信行様がああした方ですからなあ」
「比べられるのも道理です」
「殿らしいと言えばらしいですが」
「それでも」
「まあのう。それ以来じゃ」
信長の話は続く。
「母上はわしを見ると叱ってくれるのじゃ」
「それでなのですか」
「お母上には今も嫌われたままと」
「殿に問題があるとはいえ」
「厄介な話ですな」
「しかし義父殿は違った」
彼はだというのだった。
「わしを解してくれた」
「それでは今はそれを喜びですな」
「少なくとも美濃から攻められることを祝して」
「そうしますか」
「ここは」
「いや、出陣の用意じゃ」
ところがだった、信長はここでこう言うのだった。
「何時でもできるようにじゃ」
「むっ、それは何故ですか」
「一体」
「何かおありですか」
「美濃に」
「先程も言ったな。義父殿は敵が多い」
信長はまたこのことを話した。
「それでじゃ。すぐにでも異変が起こるぞ」
「それに備えてですか」
「兵の用意をですか」
「それをですか」
「そうじゃ。それでじゃ」
信長はさらに話す。それだけではないというのである。
「こうしてわし等が全てここに集まっておるとじゃ」
「あっ・・・・・・」
「確かに」
「そうなってはですね」
「あの方が」
「そういうことじゃ」
真剣な顔での。信長の今の言葉だった。
「わかったな」
「はい、それでは」
「今は」
家臣達も一斉に頷く。そうしてだった。
信長は清州に戻るとすぐに何時でも兵を出せるように準備を整えていた。会談の後ですぐにであった。彼はそう命じ備えさせたのである。
そして道三達もだ。帰路においてだった。
「ふん、何が正装じゃ」
「全くです」
「あの様な小癪なことをするとは」
「織田のあの若造、意外とせせこましいですな」
「まことに」
義龍の周りでこんな話が起こっていた。馬に乗りながらそれでだった。
「しかし。何故でしょうか」
「殿は妙に落ち着いておられる」
「それどころか顔が笑っ
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