第十六話 正装その九
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「安心されよ」
「左様か」
「わしの妻であることは何があろうと変わりはせぬ」
「それを聞いて何より」
「安心召されたか」
「充分に」
道三は完全に信長の下になっていた。そのことを見てだった。
美濃の者達は呆然となっていた。彼等にとって道三とはだ。畏怖せざるを得ない絶対の存在だった。しかしそれがなのだった。
信長に完全にしてやられている。そのうつけにだ。これは彼等にとっては驚くより他にない、まさにそうした事柄だったのである。
その驚く彼等を尻目にだ。信長はさらに言うのであった。
「してだ。茶の後は」
「その後は」
「能を御覧になられよ」
それをだというのだった。
「用意してある。存分にな」
「馬鹿な、能をここで見たら」
「それこそよ」
美濃の者達はここで信長の開く能を見るということがどういうことなのかわかっていた。それでなのだった。
主が受ける筈がないと思っていた。しかしであった。
道三はだ。ここでもなのだった。
「かたじけない」
「見られるな」
「喜んで」
こう信長に対して言ったのである。
「そうさせてもらう」
「それは何より」
信長はにこりともせずに返した。それを見た美濃の者達は。
最早呆然としていた。何と言っていいかわからなかった。
その彼等をよそに話は続いていく。茶の後でだ。
能となった。その幽玄の世界はこの世にありながらこの世にはないものを見せていた。信長は己が主の座に座った上で道三を隣にしてその能を見る。道三は何も言いはしなかった。
そして終わるとだ。また信長が言ってきたのだった。
「さて、それでは」
「今度は何だ」
「何をするつもりだ、一体」
「何をだ」
美濃の者達はまさに戦々恐々になっていた。その彼等をまたよそにしてだ。
信長は道三にあるものを出してきた。それは。
「持って行かれよ」
「茶器か」
「それを自ら渡すか」
「しかも上座で」
最後までなのだった。信長は道三を下に扱ってみせたのだった。主賓としてだ。一見してそれは理に適っている。しかしなのだった。
今の彼は完全に勝者だった。そして敗者はなのだった。
「まさかな」
「殿も思い切ったことをされる」
「全くだ」
尾張の者達の言葉だった。
「まさかここまでとはな」
「略装に対して正装ではな」
「勝負にならん」
「言うまでもない」
まさにその通りであった。敗者は相手だった。
それがわかっているからこそだ。彼等もこう言うのであった。
「まあこれで美濃の者達に対して気が楽になったか」
「うむ、戦では勝てなかったがな」
「ここでは勝てたな」
「そうだな。それにだ」
「殿だな」
「そうだ、殿だ」
ここでまた信長を見つ彼等だった。
「やはり
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