第十六話 正装その八
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「無論毒もじゃ」
「含ませていないと」
「茶にも何にも」
「それはまた」
「わしとてそうした時もある」
その謀略でも知られる道三でもだというのであった。彼は美濃の主になるまで暗殺や讒言も使ってきたのだ。梟雄と言われる由縁である。
「それではじゃ」
「はい、婿殿といよいよ」
「ご対面ですな」
美濃の者達の多くは信長を侮っていた。やはりうつけだと思っていたのだ。それでだ。こんなことも言うのであった。やはり侮ってだ。
「さて、略装でも勿体無いかもな」
「家臣達もどうした格好でいるやら」
「ある意味見物よ」
「全くだ」
だがそんな彼等を明智や稲葉達は静かな目で見ていた。それで何も言わない。そうしてそのうえでだった。会見の場に入るのだった。
するとであった。そこにいたのは。
「何っ、これは」
「正装だというのか」
「しかも全員」
「婿殿までか」
皆これには唖然となった。織田の者達は全て正装でそこにいたのだ。
そして信長はだ。織田の青い見事な正装で家臣達を後ろに控えさせてだ。美濃の者達を見据えていた。座っているのに立っているが如き迫力だった。
その彼を見てだ。殆どの者が気圧されてしまった。
「うう・・・・・・」
「まさかな」
「略装もあるまいと思っていたが」
「それで正装だと」
「しかも全員か」
おまけにその色までだ。一つに統一されていたのだった。
織田の青にだ。彼等は完全に負けていた。
「まるで海だな」
「全くよ」
「海が我等に迫って来る様だ」
「まさに津波よ」
「さて、それではじゃ」
道三が慄く彼等に対して言ってきた。
「はじまるぞ」
「は、はい」
「そうですな」
「それではこれから」
「いよいよ」
彼等は主の言葉で我に返る。義龍が憮然とした顔のままである。ただ明智に細川、三人衆と不破、それと竹中だけが落ち着いていた。
そしてであった。平手が信長に対して告げるのだった。彼の後ろにそっと寄ってだ。
「殿」
「うむ」
「斉藤殿でございます」
「で、あるか」
信長は彼の言葉に鷹揚に頷いた。
「ではこれより」
「そうじゃな」
また鷹揚に頷く信長だった。
「茶を出せ」
「はい」
こうしてあった。信長と道三は会見をはじめるのだった。
まずはだ。信長から言うのであった。
「道三殿」
「うむ」
義父をだ。殿と呼んでみせたのだった。対等、いや己を上に置いてだ。そのうえで言ってみせた言葉であった。明らかにそうであった。
「よく来られた」
「招かれて何より」
道三も彼に合わせるのだった。
「それで帰蝶は」
「達者でいる」
信長はここで微笑んでみせた。
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