第十六話 正装その五
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そんな話をしているうちにだ。皆着替え終わった。すると平手が彼等に対して告げた。
「よいか」
「はっ」
「それではですな」
「今から」
「殿をお待ちしようぞ」
平手はここでも信長を立てる。やはり彼はまず信長を見るのだった。
「会見の行われる間でな」
「左様ですな。今より」
「我等織田の格好を見せてやりましょうぞ」
「尾張の」
「うむ。しかし」
平手は慶次を見た。その彼はというと。
何と正装である。大柄なその身体を織田の青い正装で包んでである。その場に悠然と立っているのだった。
平手はその慶次に対して言うのだった。
「御主、ちゃんとした服も着られるのか」
「ははは、当然ではござらぬか」
大いに笑って言う慶次だった。
「わしもあれですぞ。正装も好き故」
「そうであったのか」
「正装もまた傾くにはいいものでござる」
「正装で傾く?」
「何をどうすればそんなことができるのか」
「慶次殿の御言葉はわからぬのう」
彼の今の言葉を聞いた矢部、福富、万見の言葉だ。
「正装は真面目に着るもの」
「傾く為のものではありますまい」
「そこでどうして傾くというのか」
「いやいや、これがなのじゃ」
慶次郎はそのいぶかしむ彼等に話すのだった。
「きちんと着る」
「はい、正装ですから」
「それは当然であります」
今度は菅屋だった。
「しかし。そこでなのですか」
「如何にして格好よく着るかよ」
慶次は得意そうに話す。
「それが正装での傾き方よ」
「ううむ、そういえばじゃ」
蜂須賀がその慶次の横に来て言ってきた。身体の大きさは同じ位である。しかしなのだった。
蜂須賀の着方がどうにも粗野で慣れていない感じなのに対して慶次のそれは実にぱりっとしている。まるで珠と瓦であった。それだけの違いがあった。
それを自分でもわかってだ。蜂須賀もぼやいた。
「やはりわしはこういう服は合わぬのう」
「まあそう言うな」
その蜂須賀を森可成が宥めてきた。
「服は着ていれば慣れるものよ」
「そうでござるか」
「そうじゃ。それでじゃ」
「はい」
「御主は目立つから前におるのじゃ」
「前で宜しいのですか?」
「その方がいいであろうな」
これが森可成の考えだった。
「黙って座っているという条件があるがのう」
「そのうえで、でござるか」
「そうじゃ。美濃の跡継ぎは相当大きいと聞く」
義龍のことである。
「何しろその母が六尺もあったそうだからのう」
「六尺でございますか」
それを聞いて驚いたのは家臣達の中で最も小柄な木下だった。誰がどう見てもである。彼のその身体はかなり小さいものだった。
「それがおなごの大きさでございますか」
「信じられぬか」
「はい、とても」
呆
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