第十六話 正装その一
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第十六話 正装
美濃の者達は既に寺にいた。そしてだ。ここに来ようという信長のことを話していた。その中心にいるのは義龍であった。道三ではなかった。
「親父殿は何処か」
「まだです」
「まだ来られてません」
「まだというのか」
義龍は腹心達の言葉に顔を顰めさせた。
「何故だ、一体」
「あのまま帰蝶様の婿殿をです」
「見ていたというのか」
「はい」
そうだというのである。
「それでなのですが」
「馬鹿な話だ」
義龍はそれを聞いて一言で言い切った。
「あのうつけを見て何になるというのだ」
「ですが美濃三人衆に不破殿もです」
「あの方々も行っていますが」
「あの者達も今一つわからんところがあるからな」
義龍は彼等も行ったということには内心いささか不快なものを感じた。しかしそれは消してそのうえで家臣達に応じているのであった。
「どうもな」
「それに半兵衛もまた」
「行っていますし」
「明智殿に細川殿もです」
「行っていますので」
「何だというのだ」
これまでの顔触れを聞いてだ。義龍はさらに不快なものを感じた。そのうえで顔を顰めさせてだ。言わずにはいられないのだった。
「あの者達がこぞってとは」
「好奇心からでしょうか」
「うつけを一目見たいと」
「一体どうしたうつけなのか」
「それで」
「そうであろうな」
義龍はここでは半ば自分に言い聞かせたのだった。そうした言葉だった。
「どう考えてもな」
「そうですな。それで、ですが」
「その殿も間も無く戻ります」
「他の面々も」
「左様か」
義龍の返事はここでは無愛想なものだった。不快なものが消えればそれになるのだった。
「ではよい」
「服はどちらを用意されるでしょうか」
「正装でしょうか。それとも略装でしょうか」
「どちらでもよかろう」
服についてはどうでもいいというのであった。
「それはな」
「いえ、折角の会見ですから」
「そうはいきますまい」
「ここはやはり」
「正装では」
「相手はうつけだ」
彼は信長を何処までもそう見ていた。そしてその考えから離れることはなかった。それも一寸たりともだ。全く離れることはなかった。
そのままでだ。彼はまた言うのだった。
「どんな服でも構わんだろう」
「略装でもですか」
「それでもですか」
「構わないと」
「そうだ、構わぬ」
今度は断言であった。
「どうせ碌な服で出て来ぬわ。確か奴の親父の葬儀の時だ」
「あの時ですか」
「確かあの時は」
「かなりの姿だったとか」
このことは美濃にも知れ渡っていた。そして他の国にもだ。こうした話は瞬く間に広まるものだ。噂は何よりも速く広まるものだからだ。しかもどんな壁もすり
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