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戦国異伝
第十五話 異装その十六

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 そしてだ。こんなことも言ったのだった。
「おなごもよいがじゃ」
「その他といいますと」
「男の方はどうなのじゃ」
 この時代では至って普通である。実際にそうした話は幾らでも残っている。日本でそうした趣味で罪に問われた例は皆無である。
「そっちは」
「そっちは別に」
「興味はないか」
「というよりか又左殿まさかわしを」
「おいおい、馬鹿を申せ」
 前田は木下の今の言葉には思わず吹き出してしまった。そしてすぐに言い返した。
「わしはかなり五月蝿いのだぞ」
「といいますと」
「御主には手は出さぬ」
 それはないというのだ。
「絶対にな」
「左様ですか」
「ほっとしたか」
「ええ、まあ」
 実際にいささか大袈裟な仕草でほっとしてみせている木下だった。ここには芝居がけておどけたものも見せているのである。周りを笑わせる為だ。
「しかし又左殿も」
「それは普通じゃろう」
「まあわしはそっちの趣味はありませんが」
「やはりそうなのか」
「おなごだけで充分でござる」
 はっきりと言い切ってみせたのだった。
「それで」
「ふむ。それでもおなごはとびきりか」
「駄目でしょうか」
「顔だけ見ればのう」
 その猿そのままの顔を見るとどうしてもこう言ってしまうしかなかった。しかも背は低く体格も貧弱である。そうしたものを見ればとてもであった。
「しかしじゃ」
「しかしですか」
「御主は顔とか以外でもてるな」
 そうだというのである。
「それもかなりな」
「だといいのですが」
「おなごだけでなく男にももてるぞ」
「ですからわしはそっちの趣味は」
「また違う意味じゃ」
 すぐに言い返したのだった。
「それでわかるな」
「ああ、そういうことですか」
「そうじゃ。まあとにかくな」
「はい、とにかく」
「この会談が終わってからじゃ」
「それからですな」
「そのねねと会わせてやろうぞ」
 前田は笑顔で木下に話す。二人は何時の間にか仲良くなっていた。そしてそのうえでだ。木下は思わぬところから飛びきりのおなごを女房にしようとしていた。


第十五話   完


                 2010・11・6
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