第十五話 異装その十四
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そして信長はだ。傍らにいる丹羽に告げていた。丹羽もまた彼にしては珍しく傾いた格好をしている。青と紫のかなり派手な服である。
その彼にだ。信長は言うのであった。
「五郎左よ」
「何でしょうか」
「服は持って来ておるな」
「略装ですか」
「わかって言っておるであろう」
「いえいえ、滅相もない」
面白そうに笑ってだ。丹羽は言葉を返した。
「それは」
「真にそう言えるか?」
「今はそうでないとならぬかと」
これが丹羽の返答だった。
「違いますか、それは」
「言うのう、御主も」
「何かと慣れてきましたので」
だからだというのである。
「それは」
「慣れてきたか」
「はい」
笑みはそのままで信長に答える。
「殿と一緒にいますと」
「まあそなたはじゃ」
「それがしは?」
「何かと役に立つ男じゃ」
これが信長の丹羽への言葉だった。そしてだ。こう言うのであった。
「米じゃな」
「米ですか」
「そなたは米じゃ」
それだというのだ。
「米と同じじゃ。常に必要じゃ」
「有り難き御言葉」
「権六は掛かれで牛助は退きじゃ」
戦で主に働く二人はそれだというのだ。
「二郎は海老じゃな」
「それがしは海老ですか」
「海におるからよ」
海賊の姿になっている九鬼に対してだった。九鬼もまたいるのだ。
「まあさしづめそういうところじゃ」
「だからですか」
「新五郎と六郎は味噌かのう」
林兄弟は味噌であった。
「やはり必要じゃな」
「有り難き御言葉」
「何か食われてしまいそうですが」
この二人も仮装している。どちらもあえて白拍子の服になってだ。馬の上にいるのである。
「してそれは赤い味噌ですな」
「やはり」
「尾張の味噌はそれしかなかろう」
信長は二人に対して笑いながら話す。
「他の者達も麦だったり大根だったり鮒だったりじゃな」
「ではわしは鯉ですな」
前田が笑いながら言う。
「まさに」
「又左、そなたは鯉ではない」
「では何でござるか」
「大根よ」
それだというのだ。
「無闇にでかい。おまけに妙に癖がある」
「おやおや、何か妙なものでござるな」
「しかしわしは大根は好きじゃ。覚えておけ」
「ははは、それは何よりでござる」
「あと木綿はじゃ」
今度は木下を見る。そしてだった。
「猿かのう」
「おや、わしは木綿ですか」
「まあそんなところじゃ」
木下が振り向くと実際に彼にも告げた。
「木綿じゃな」
「左様ですか。では木綿の様に」
木下も主の言葉に応えて馬の上で何とか跳ねながら言う。やはり馬に乗るのにまだ慣れていない。それでもその軽い身体を巧みに動かしてだった。
「何でも役に立ってみせましょうぞ」
「猿、調子に乗ってだ」
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