第十五話 異装その二
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「そこまでの智謀の御主にもだ」
「智謀か」
義龍も今の父の言葉には素直に顔を向けた。
「確かにな。半兵衛の頭は恐ろしいものがあるわ」
「そうですな。この者やがては」
「天下に名を轟かす軍師になりますな」
「必ず」
「左様、まさに美濃の宝よ」
道三は口々に言う家臣達に対して述べた。
「この者はな。それでだ」
「あの大うつけをですか」
「半兵衛に見せられるというのですか」
「それは」
「まあ見ておれ」
だが、だった。道三は自信に満ちた声でいぶかしむ家臣達に告げた。
「やがてわかる」
「やがてやがてというがだ」
義龍がまた父に対して言う。
「父上はまさかと思うがだ」
「まさかとは」
「あのうつけを高く買っておるのか?」
いぶかしむどころではなかった。明らかに疑う顔でだ。父を見てそのうえで言った言葉だった。
「あの大うつけを」
「大うつけだからこそだ」
「またそう言うがだ」
「まあ御主にはわからんかもな」
我が子に対しては冷たい言葉をかけたのだった。
「所詮はな」
「わかりたくもないわ」
息子もこう父に返す。
「そんなことはな」
「わからないというのか」
「そうよ」
まさにそうだと返す義龍だった。
「うつけのことなぞな」
「うつけとはじゃ」
ここでだ。道三はこうも言うのだった。
「わしも呼ばれていた名前じゃ」
「そうだったのか」
「そうじゃ。わしはかつてはそうだった」
こう言ってであった。彼はさらに話すのだった。
「面白いことよ」
「では尾張の織田殿も」
「そうだというのですか」
「では」
「いや、違う」
そうではないというのだった。道三はそれは否定した。
そのうえでだ。彼は言った。
「あの者。もしやだ」
「もしやですか」
「そうなのですか」
「そうだ。まあそれも見ていればわかることじゃ」
ここでも言葉を途中で止めてみせたのだった。
「おいおいじゃ」
「ふん、勿体ぶってくれるわ」
義龍は袖の下で腕を組んで言い捨てた。
「だからどうだというのじゃ」
「いや、これは」
「そうだな」
「もしや」
しかしであった。三人衆はここで顔を見合わせて話し合った。
「あの婿殿は」
「できるやもな」
「うつけではなく」
そしてだ。道三の顔を見る。そのうえでまた話すのだった。
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