第十四話 美濃の蝮その十五
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「よいな」
「はい、それではです」
「我等もまた」
「命を賭しましょうぞ」
「言ったな」
信長は家臣達の今の言葉には満足した笑みを浮かべた。そうしてそのうえでその満足の理由も彼等に対して話すのであった。
「わしと共に。そうしてくれるのだな」
「二言はありません」
「それではいけませぬか」
「我等も。蝮殿と命のやり取りをすること」
「殿と共に」
見ればだ。誰もが同じ顔になっていた。普段は厳しい平手もである。留守役としてあえて残している信行以外の主だった者達が揃っている。その彼等が全て言うのであった。
「まあ命はです」
「そうだな」
山内と堀尾は飄々としながらもその目は真剣なものだった。
「賭ける時があるものですし」
「それが今ならば。喜んで」
「よし、それではだ」
信長は二人の言葉を受けてあらためて言った。その言葉はだ。
「芝居を打つぞ」
「芝居ですか」
「それをなのですか」
「皆傾け」
今度はこう告げた信長だった。
「よいな、傾け」
「傾けとは」
「まさか」
「あれですか」
「殿のあれを」
「それを皆でするのだ」
こう家臣達全てに言うのであった。
「慶次を手本としてじゃ」
「ははは、わしですか」
それを聞いた慶次はおかしそうに笑う。その右手を己の頭の後ろにやってだ。そのうえでの言葉であった。
「わしの様に傾けとは殿も仰いますな」
「それかわしじゃ。とにかく傾け」
そうしろというのだった。
「よいな」
「ううむ、傾くとなると」
「服ですか」
「それに髷も」
「変えよと」
「寺に入る時でよい」
信長は何時そうするかも話した。
「その時にじゃ。よいな」
「全く。何をされるかと思えば」
平手はここでも主の言葉に溜息から説教をはじめるのだった。
「まさかと思いますがそれで道三殿を驚かすというのではありますまいな」
「ははは、それはない」
「ありませぬか」
「義父殿はそうしたことで驚かれぬ方だ」
そうだとだ。信長は言うのだった。
「そしてじゃ。まあ義父殿はわかっておられても」
「違うというのですか」
「義父殿だけ来られてもおるまい」
信長はだ。ここでこう言うのであった。
「そうだな」
「はい、美濃の家臣の者達も来ております」
平手は彼等のことを話に出した。
「それは間違いありません」
「その者達をだ」
信長の目はまさに悪戯をする子供の目になっていた。その目での言葉だった。
「騙してみるのよ」
「蝮殿ではなくですか」
「あの者達をですか」
「そうだというのですね」
「国は一人でもつものではない」
信長はよくわかっていた。何故なら彼もまた己だけで尾張を治めているのではないからだ。多くの家臣達がいてこそだからだ
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